7000億円還元という仰天「選択」 東芝の「忖度」と「損得」

13日の東京株式市場で東芝(6502、2部)株が急伸した。一時、前日比35円(11%)高の351円まで買われ、2016年12月27日以来、およそ1年半ぶりの高値を付けた。前場中ごろに「異例」となる7000億円規模という大型の自社株買い方針を発表したのを好感した形だが、他の企業のような株主還元策の強化とは一線を画している。

「特定の株主の機嫌をとらなければならない事情でもあるのか」。ある国内運用会社の調査担当者はこう漏らす。東芝の自社株買いの方針発表は、1日付でメモリー事業の売却を完了したばかりのタイミング。さらに臨時決算の実施も検討するなど、異例の対応となるためだ。

市場が勘繰るのも無理はない。昨年実施した約6000億円の増資に伴い、東芝の株主には「物言う株主」が名を連ねているためだ。昨年12月に関東財務局に提出した報告書によると、旧村上ファンド出身者が設立したエフィッシモ・キャピタル・マネージメントは11%強を保有。5%超を持つ米キング・ストリート・キャピタル・マネージメントは5月29日付で、保有目的に「状況に応じて重要提案行為などを行う」を追加していた。

東芝は13日の発表資料で、「海外投資家を中心に当社の企業価値、株主価値が過小評価されており、適切な経営施策、資本政策により潜在力を顕在化させ、東芝再生とともに企業価値、株主価値を最大化しうるとの意見をいただいている」と説明。こうした投資家のなかに、「適切な資本政策」として株主還元を求める声があったとみることも可能だ。

だが、今回の自社株買いは市場でも想定されていた。車谷暢昭会長兼最高経営責任者(CEO)は5月15日の決算説明会で「自社株買いを含めた株主還元についてメモリー事業の売却完了後に実施すべく検討していく」と説明していた。野村証券は6月6日付のリポートで、2019年3月期に6000億円規模の自社株買いが実施されると予測。「増資と事業売却で必要以上に集まった資金を投資家に戻すということだろう」(しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹運用部長)との声が市場からは聞かれる。

メモリー事業を売却した新生東芝は、そのままであれば以前ほど資金が必要ではないと言える。東芝が注力するのは社会インフラやエネルギーなどの4事業。車谷会長は「成長にはM&A(合併・買収)も重要だと思っているが、シナジー(相乗)効果の実現の確からしさやリスク分析を行ったうえで慎重に検討していきたい」との方針だ。

ただ、幅広い株主を含めたステークホルダー(利害関係者)の見方は「メモリ会社売却で得た巨額資金を、株主還元に加え、会社を再び成長路線に戻すためのM&Aなどに活用する」ことだったはず。大型還元は一過性に過ぎない。「結局、成長に向けたストーリーを持てていないのが現状だ」(藍沢証券の三井郁男・投資顧問室ファンドマネージャー)と、市場は冷静に受け止める。

メモリー事業売却資金の過半を株主還元にあてた上で描く成長戦略とは何か。株主総会を無事通過してからも、新たな困難が待ち受ける。

【日経QUICKニュース(NQN ) 神能淳志】

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