外国為替市場で円相場の下落傾向が続いている。前日15日のニューヨーク市場で1ドル=110円45銭と2月上旬以来ほぼ3カ月ぶりの安値を付け、16日の東京市場でも110円台前半の水準を保っている。110円台は2日と10日にも到達したがいずれも滞空時間は短く、すぐに109円台に押し戻された。今回はどうだろうか。市場では「三度目の正直で今度は定着しそうだ」との予想が多い。
前回2回と、今回15日以降の違いは2つある。1つは、円相場の水準が市場参加者が当面の下値メドとみていた1ドル=110円20銭前後をきれいに下回ったことだ。
110円20銭前後といえば今週初めまで、長期トレンドを占う基準とされる200日移動平均線(グラフ緑線)が通り、チャート重視派や国内輸出企業からの円買い注文が厚くなっていたゾーンだ。15日の攻防によって「110円ちょうど~20銭近辺での円買いはほぼなくなった」(みずほ証券の鈴木健吾チーフFXストラテジスト)。実需の円買いは目標水準を円安方向にシフトする公算が大きい。円の押し上げ圧力はしばらくは強まりにくいと考えられる。
もう一つは米長期金利が当分高く推移するとの見通しの拡大だ。指標となる米10年物国債利回りは15日に3.09%と6年10カ月ぶりの水準になったが、債券市場では「さらに3.25%程度を目指す」との声が増えている。小売統計など最近の景気指標を日米欧で比べると、米国の堅調さが際立つ。ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に支えられた金利上昇ならドル買い材料とみなせる。
最近は円よりもユーロや英ポンドのほうが対ドルでの下げがきつかった。過去1カ月間の対ドルでの下落率はユーロとポンドは4~6%程度だが円は3%弱にとどまる。このため「円には相対的に割高感があり、売りやすい」(あおぞら銀行の諸我晃総合資金部部長)との指摘も出ている。
足元の円安シナリオは北朝鮮や中東情勢の安定を前提にしている。言い換えれば朝鮮半島などの地政学リスクが再燃すれば円の下落は止まる。
北朝鮮は日本時間の16日未明、米韓の軍事演習を理由に、16日に予定していた南北閣僚級会談への参加をとりやめる意向を示した。中東はイランやイスラエル、シリアを巡って相変わらずきな臭い。市場には「円の売り持ち高をどんどん膨らませられる雰囲気はない」との懸念も残る。
米金利上昇と米ドル高をきっかけに新興国からの資金流出が進み、お金の目詰まりをもたらすとの警戒感も強い。円が仮に下落基調を維持できたとしても、そのペースは緩やかとみるのが自然だろう。みずほ証の鈴木氏は「当面の円の下値メドは1ドル=111円台後半」と控えめに話していた。
【日経QUICKニュース(NQN ) 蔭山道子】
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