QUICKは20日、東京・中央区の本社に市場関係者を招き「QUICK月次調査セミナー」を開いた。今年のテーマは「日米金融政策の行方と2018年度の投資ベストポートフォリオ」。基調講演した前日銀審議委員の木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストは日銀が掲げる2%の物価目標について「通常のインフレ目標としては高すぎる。物価目標の柔軟化が必要だ」などと語った。
QUICKは毎月、株式や債券の運用担当者やアナリストたちを対象に市場の動向や投資スタンスなどを調査している。セミナーは年に1回、月次調査の回答者を対象に開いており、今年は債券と株式の関係者あわせて74人(昨年は60人)が参加した。
木内氏は「9月の自民党総裁選や、日銀が10月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)を発表するあたりから、2%物価目標の位置づけを考え直すことを示唆する情報発信が出やすい」との見方を示した。10月の展望リポートを発表する際、2%の達成時期を20年度ごろに先送りする可能性がある一方、9月の自民党総裁選に向け、政府がデフレ脱却宣言を出す可能性もあるとの見通しを示した。
「今後5年の日銀の金融政策は? 異次元緩和の出口戦略」と題して講演する木内氏
長期金利ゼロを掲げる日銀の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)については「構造的な欠陥がある」と強調。現在の10年物国債利回りを0%程度とする目標を、5年債利回り、将来的には2年債利回りへと短期化していく方法があると示した。
また、黒田東彦総裁の再任は「2%の物価目標に対する政府のこだわりがそこまで大きくない」ことの表れだとして、現在の金融政策を修正する余地があるとも指摘した。(金融緩和に積極的な)リフレ派が日銀総裁に就任することが「最悪のシナリオだった」とし、黒田氏の再任を「良かった」と評価した。
基調講演に続くパネルディスカッションは、ニッセイ基礎研究所の徳島勝幸・金融研究部年金研究部長兼年金総合リサーチセンター長をコーディネーターに、コモンズ投信の伊井哲朗・社長兼最高運用責任者と三菱UFJモルガン・スタンレー証券の芳賀沼千里チーフストラテジストが「株式チーム」、三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケットストラテジストと三菱UFJ国際投信の小口正之・債券運用部チーフファンドマネジャーが「債券チーム」となり、18年度のベストポートフォリオについて議論した。
伊井氏は企業統治を重視する「『ESG投資』の動きが加速してきている」と述べ、ESG投資に収益機会があるとの見方を示した。日本株を強気にみていると言い、とりわけ「日本の強みはロボティクス。そういったファンドは多少(相場全体の)調整があっても強い」と強調した。
芳賀沼氏は株式と債券を比べると株式に強気だと述べた。国内はすでに完全雇用に近づいており、ある程度賃金が上がると指摘。デフレ脱却の見方が出てくるとしたうえで「早い時期に日経平均株価は2万4000円に到達するのではないか」と予想した。
一方、瀬良氏は米国債券と欧州債券に強気な見方を示し、「欧州債は米国債と比べても魅力がある」と述べた。特にフランスやスペインの国債が投資対象としての魅力が高いと分析した。
小口氏は13年のバーナンキ・ショックや08年のリーマン・ショックなど5年ごとにショックが起きてきたことに注目していると指摘。先行きのリスクについて「アベノミクスの逆のショックか、日銀ショック。急速に政策が変わる可能性はある」との見方を示した。
今回のセミナーでQUICKは、基調講演とパネルディスカッションを挟んで来場者に国内株や米国株など9つの資産クラスに対する18年度の見通しをスマートフォンで回答してもらい、即時に結果を集計・公表するというインタラクティブ(双方向)な手法を新たに取り入れた。この結果、セミナー後に国内株式に対する強気な見方が一段と増え、米国債券への弱気な見方が後退。一方、新興国株式への強気な見方が大幅に減った。
【日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢】
※NQNが配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。