鉄鋼・アルミ関税 トランプ米大統領の君子豹変はあるか

5日の米国市場でダウ工業株30種平均は5営業日ぶりに反発し、336.70ドル(1.37%)高の24874.76ドルで終えた。トランプ米大統領が同日、ツイッターで「われわれはメキシコとカナダに大きな貿易赤字を抱えている。NAFTAで新しくフェアな合意がなされれば、鉄鋼とアルミの関税は除外されるだろう」などとツイート。さらに共和党のポール・ライアン下院議長が鉄鋼・アルミ関税に関して「深刻に懸念している」と、大統領の方針に反対する姿勢を表明したことを受け、貿易摩擦懸念がやや和らぐ展開となった。

ナスダック指数とS&P500指数も1%超上げて堅調。ダウの上げ幅は一時422ドルに広がった。上昇寄与度トップはボーイングで55ドルほどダウを押し上げ。値上がり銘柄数は29で、ほぼ全面高の展開だった。恐怖指数のVIXは大幅続落して4.38%安の18.73で終えた。

【ダウ構成銘柄の寄与度一覧】

トランプ大統領が1日に鉄鋼・アルミに高関税を課す方針を明らかにしたことで、貿易摩擦や保護主義への懸念が3月相場の悪材料となっている。5日の米国市場ではその流れが小休止したが、果たしてトランプ氏は鉄鋼やアルミの高関税措置について、どう落としどころを探るのだろうか。

新興情報サイトのアクシオスが4日に報じた情報によると、元ゴールドマン・サックス社長で、トランプ政権の経済政策の司令塔である国家経済会議(NEC)のゲーリー・コーン委員長はトランプ氏が高関税を課そうとしていたことに異議を唱えていたという。

コーン氏は、トランプ政権のもとで歴史的な高値圏に上昇した株式市場や、税制改革の効果が高関税によって失われてしまうと主張。保護主義的な政策の導入に反対し続けていたという。しかし、トランプ氏は「コーンはグローバリストだ」などと述べ、意見に耳を貸さなかったもようだ。

コーン氏は後に同僚らに「高関税を支持するウィルバー・ロス商務長官や貿易強硬派のピーター・ナバロ氏がトランプ氏に嘘をついている」と話していたといい、強攻策を主張したロス商務長官らに不満を高めていたという。

高関税を課す根拠の1つである米通商法232条「国家安全保障上の脅威」についてもコーン氏は適用するのは難しいと反対していたようだが、1日にトランプ氏の口から方針が示されたという事は、ひとまずロス氏らの主張が通った状況と言える。鉄鋼・アルミの高関税を巡って、ひとまずホワイトハウス内で貿易強硬派が勝ち、コーン氏と共に自由貿易を主張していたロバート・ポーター秘書官は2月にドメスティック・バイオレンスを理由に辞任した。

政治情報サイトのポリティコによればコーン氏は先週、トランプ氏が全面的に関税を課し、貿易戦争に踏み切る場合は辞任するつもりだと一撃を放ったという。

コーン氏のほか、NECや米財務省の担当者らは無遠慮な関税が導入されれば米国経済がダメージを受け、株式市場が暴落するとトランプ氏に説得を続けているとのこと。全ての国を対象にしつつ、品目ごとに細かな適用除外品を設けるなど、実質的な骨抜き策が出るのか、コーン氏らの巻き返しが注目されそうだ。

トランプ氏が5日、NAFTA再交渉と絡めて関税措置の見送りを示唆したことは、コーン氏らの説得が徐々に効果を挙げていることを想像させる。

世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエーツを率いる米著名投資家のレイ・ダリオ氏は5日にリンクトインにコラムを投稿し、「米中の貿易紛争は起こらないだろう、政治ショーだ」と冷静な分析をしていた。

コンサルティング会社のトレード・パートナーシップ・ワールドワイドによれば、鉄鋼・アルミ関税が導入されれば鉄鋼関連で3万3464人の雇用が増えるというが、他の職種では17万9334人の雇用が失われるといい、差し引き14万6000人の雇用喪失に繋がるとのこと。中国による米国債売却懸念も含め、保護主義に対して金融市場・実体経済ともに大きな代償があることはトランプ氏も分かっているはずだが…。

トランプ氏が以前から鉄鋼に関心を寄せていたとはいえ、このタイミングで高関税を課す方針を出したことには意外感がある。NAFTA再交渉や北朝鮮情勢を巡って中国にプレッシャーをかける意味合いがあったかも知れないが、中間選挙を控えた国内要因が影響している可能性がある。

双日総合研究所の吉崎達彦チーフエコノミストは2日付の溜池通信・不規則発言で、今回の鉄鋼・アルミへの関税方針について「ひとつ考えられるのは『PA-18』である」と指摘した。

トランプ氏は、今月13日に予定されているペンシルベニア州18選挙区の下院補欠選挙を意識しているとみられるとのこと。吉崎氏は「ピッツバーグ市の郊外にある選挙区で、この選挙を勝つために鉄鋼業のテコ入れをぶち上げているのかもしれない。『ピッツバーグってことは鉄鋼だろ?』と考えているんだとしたら、いかにもトランプさんらしい短絡的な思考である」と指摘しながら、「435もある下院議席のひとつのために、通商政策を歪めるなんてのは筋ワルもいいところである」と指摘した。

情報サイトのReal Clear Politicsによれば共和党のリック・サッコーン候補が世論調査でリードしているが、昨年12月12日に行われたアラバマ州の上院補欠選挙で共和党候補が敗れた以上、トランプ氏としては確実に巻き返しを図りたいと思っても不思議はない。

アラバマ補選に先立ち、トランプ氏が昨年12月6日にイスラエルのエルサレムに米大使館を移転する方針を表明したことはアラバマの福音派票を取り込む狙いがあったと取りざたされており、選挙に絡んで大胆な行動に出る前例がある。

しかし今回のペンシルベニア補選にはオチがある。前出の吉崎氏の指摘によれば、「選挙区割りは今年、改定される」という。つまり、今回の補欠選挙ではPA-18は今まで通りの選挙区で行われるが、今年11月の中間選挙では選挙区の形は全然違うことになってしまうというのだ。仮にペンシルベニア補選に配慮して今回の鉄鋼業界への保護策を決めたのなら、実質的に意味がないと分かったところで振り上げた拳を降ろす可能性も否定できず、トランプ氏の君子豹変が期待される。

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