日銀の片岡剛士審議委員が1日、昨夏の委員就任後初めて、公の場で講演した。同氏は日銀政策委員会の中で唯一、追加緩和を主張する「ハト派」。2%の物価目標達成のためには10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるべきだと、現行の政策に反対している。市場では金融緩和の正常化に向けた観測や緩和の副作用への懸念が浮上するが、片岡氏はデフレ脱却を実現するには今しかないとの危機感を募らせている。
現在、日銀は物価目標を「2019年度ごろ」に達成すると見通す。講演の中では、片岡氏はその「19年度」の経済について、2点留意する必要があるとの考えを提示。2点をふまえると、1年早い18年度中に物価目標を達成することが望ましく「もう一段の追加緩和が必要である」と訴える。
1つ目の留意点は、19年10月の消費税率の引き上げだ。前回、消費増税をした14年4月以降の実質可処分所得と実質消費を分析し、所得が伸びても消費が増えにくくなっていると指摘。増税すれば、消費が伸びず「物価の下押し圧力が高まる可能性がある」との危機感を示した。
もう1つは海外経済だ。米国では3月に開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げが確実視されており、それ以降も19年まで段階的に金利を引き上げていくと見込まれる。教科書的にいえば、金融引き締めを続ければ景気が落ち込むリスクは高まる。米景気が変調すれば世界経済へ与える影響は大きく、「注意が必要である」(片岡氏)とした。
ただ、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げることで、どのように物価が上がっていくかの説明は講演を聞く限り、説得力に乏しい。日銀ウオッチャーの中では「結局のところ、(日銀が緩和姿勢を見せる)アナウンスメント効果で円安が進むことによる物価上昇を狙っているのではないか」(ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミスト)との声が漏れる。
2%の物価目標は13年1月に政府と結んだ「共同声明」に盛り込まれており、日銀だけでは変えられない。「共同声明」を変えればアベノミクスの失敗と市場にとらえられかねない。2%の目標達成のために日銀にできることは、黒田総裁のように物価は上がっていくと言い続けることなのか、片岡氏のように緩和はまだできると言うことなのか。正解は見えない。
【日経QUICKニュース(NQN) 矢内純一】
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