外国為替市場でドル売りのモメンタム(勢い)がいったん止まっている。対円は日本時間の20日9時時点で1ドル=106円70銭台と、前週付けた1年3カ月ぶり安値の105円台半ばから1円超戻した。
コンピューター・プログラム「アルゴリズム」を駆使するシカゴなどの商品投資顧問(CTA)は前週半ば以降、唐突に米国の財政赤字などを持ち出してドルの安売りに全力を挙げてきたが、ここにきて材料の継続性を見極めようとしているようだ。
CTA勢がさして新しくもない米財政収支や経常収支に焦点を当てた背景に、中国などアジア系の政府・中央銀行による外貨準備のドル離れ観測があったことはよく知られている。
米国債相場の下落(利回りは上昇)ペースが速まり評価額は下がってきたのに、運用比率を保つ目的の米債買いが目立たなかったからだ。米株高などで投資家のリスク選好意欲が戻ったにもかかわらず、CTAが「低リスク通貨」の円を対ドルで買い進めた一因にもなっている。
外準マネーの動きは米債の償還・利払いを挟んだ前週15日前後もさほど強くはなかった。感情を持たないアルゴリズムはプログラマーのセッティング通りに淡々とドルを売ったと考えられる。だがお金の流れを細かく点検すると、中国などのドル売りは外準の運用スタンス変更を示すものでは必ずしもなかったと受け取れる。
からくりはこうだ。中国では2017年の前半、金融引き締め策をとると同時に外貨準備を取り崩し、人民元買い・ドル売りの為替介入を頻繁に実施した。そのかいあって同年秋にかけてドル売りの必要性は薄れ、外貨準備は徐々に回復した。
外準はまずはドル建てで増えるので、ファンドマネジャーは所定の運用比率にあわせてドルを売り、ユーロや円、英ポンドなどを買う。中でもユーロの比率が高いため、ユーロ買い・ドル売りが広がりやすい。
シティグループ証券の高島修・チーフFXストラテジストは「昨年終盤以降の対ユーロ主導のドル安は外準のドル売り・ユーロ買いをきっかけに起きたと考えればつじつまがあう」と話す。
1月10日に流れた中国の「米国債購入の減額・停止」報道とも矛盾はしない。投機筋は欧州中央銀行(ECB)の量的緩和の早期縮小観測やムニューシン米財務長官から飛び出した「ドル安容認発言」をうまく生かしてドル売り戦略を成功させたのだろう。中国などの外準マネー拡大が続けば、ドル売りはさらに膨らむかもしれない。
一方で高島氏は「外準に占める円の比率は極めて低く、円高・ドル安とは整合性がとれない」とも指摘。外準トークをよりどころにした円高には限界があると想定している。
国際通貨基金(IMF)が四半期ごとにまとめている外貨準備の構成統計(COFER)によると、中国を含む内訳が明らかになっている分だけで算出したドル建て資産の占める割合は昨年9月末時点で約64%、ユーロは20%程度だが、円と英ポンドは4%台にとどまる。資産配分の結果生じる円買い・ドル売りの規模はおのずと小さくなるはずだ。
18年は日本でも量的緩和策の縮小観測が台頭しているが、ECBの緩和縮小観測に比べると現実味がまだ薄い。ドル安が仮に続くとしても、円はユーロに後れをとるものだと意識すべきだろう。
【日経QUICKニュース(NQN ) 今 晶】
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