筑波大学発のベンチャー企業で、医療・介護向けのロボットスーツ「HAL」を手掛けるサイバーダイン(7779)を巡る動きに注目したい。15日の大引け後、取引所外の単一銘柄取引でサイバーダイン株で124億1627万円の取引が成立し、約定価格はネットで1614.6円、売買高は769万株だった。15日終値(1755円)に対して8%ディスカウントされた取引だったこともあり、背景を探る動きがみられた。サイバーダインの株主構成をみると、この売買が可能なのは、名目上筆頭株主で3769万株を保有する大和ハウス(1925)のみだ。
この件について大和ハウスの広報グループに電話取材すると、「サイバーダインが昨年12月、米国食品医薬品局(FDA)からHAL医療用下肢タイプについて医療機器としての市販承認を取得し、株主層拡大のため大和ハウスが保有する株式の譲渡を依頼されたので応じた。今後180日間に追加売却はない」とコメントした。
大和ハウスとサイバーダインの蜜月期間は長い。2007年に第三者割当増資を引き受けたのを皮切りに、2008年にはロボット事業に関する総代理店契約を締結。HALを一括して買い受け、国内で独占販売してきた。その後も出資比率を引き上げるなど関係を深めてきた。今回売却した769万株を除いても依然3000万株を保有するうえ、大和ハウスも資本業務提携関係を継続する意向を示している。ただ、サイバーダイン側のIR担当も売却された769万株の行方に関して明言を避けており、誰が新たに取得したかは不明だ。海外展開に向けて新たな資本業務提携などが画策されているのかもしれない。
HALは、身体を動かすときに発生する生体電位を装着者の皮膚表面から読み取り、歩行や関節の動作をアシストする装着型ロボット。介護用途などへのニーズが高いと期待されている。同社はロボット先端技術の軍事転用を防ぐ名目で、創業者の山海嘉之社長に上場株式の10倍の議決権をもつ種類株が設定されるなど、鳴り物入りで2014年3月に東証マザーズに上場した。しかし売上高は微増に留まり黒字転換の道のりは険しい。一方で時価総額は2400億円超に達し、割高感を指摘する声は多い。
それが形となって現れたのは2016年夏。空売り投資家のシトロン・リサーチによる挑発的なレポートが話題となった。シトロン社は米国などで特定の企業に空売りのポジションをとり、その企業の問題点を指摘する会社として知られ猛威を振るっていたが、サイバーダインにも牙を向けた。「サイバーダインは世界で最も途方もなく低価な株券です。日本の投資家の方に細心の注意をはらうことをお勧めします」と言い切り、目標株価を当時の株価から85%下回る300円に設定した。サイバーダイン株は急落し、大和ハウス株も連れ安したのは記憶に新しい。
同じく空売り投資家のウェル・インベストメンツ・リサーチもサイバーダインを「口先ばかりで成果が伴っていない」と酷評した。同年12月には、科学誌ネイチャーに「新医療技術:サイバニクス治療(機能再生治療として)」として同社が掲載されると、すかさずシトロンは「サイバーダインのさらなる嘘と欺瞞をあばく」と挑戦的なレポートを作成。「この記事は山海嘉之CEOが書いた有料広告以外の何物でもない」と指摘していた。最近は鳴りを潜めている空売り投資家だが、今回の一連の動きに再び反応するのか注目したい。
(QUICKエクイティコメント)
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