29日の東京株式市場で仮想通貨に関連する銘柄がそろって上昇した。仮想通貨取引所大手のコインチェック(東京・渋谷)から約580億円分もの巨額の仮想通貨が流出する問題が起きたものの、嫌気するムードはない。むしろコインチェックからの顧客移動や利用者保護の強化による業界の健全性向上が、競合他社やマイニング(採掘)を手掛ける企業の追い風になるとの見方が出ている。
代表的な関連銘柄とされるGMO(9449)やSBI(8473)、セレス(3696)がそろって大幅高となった。セレスは26日に2017年12月期の業績見通しを上方修正したこともあって、一時前週末から14.6%値上がり。GMOは同9%高の2198円を付けて昨年来高値を更新した。3社はいずれも仮想通貨のマイニングを手掛けているほか、GMOはグループ会社が仮想通貨の取引所を運営。セレスとSBIは仮想通貨取引所事業への参入を計画している。子会社が取引所を運営するリミックス(3825、2部)やフィスコ(3807、JQ)も高い。
コインチェックのセキュリティー対策に問題が見つかったことで、株式市場では「顧客が他の取引所に移るとの思惑につながった」(大場敬史・岡三証券投資戦略部長)という。同業他社にとって「棚ぼた」というわけだ。
コインチェックは仮想通貨の送信に必要なパスワード(秘密鍵)を外部につながるネットワークに接続した状況で保管していたなど、ハッキングへの対応が不十分だったことを26日の記者会見で認めている。今回流出したのは「NEM(ネム)」と呼ばれる仮想通貨。情報サイトのコインマーケットキャップによると、ネムの時価総額は87億ドル(約9400億円)と仮想通貨として第10位の大きさで、存在感はそれなりに大きい。
国は17年4月に改正資金決済法を施行し取引所に登録を義務付けたが、コインチェックは登録審査中の「みなし業者」だった。今回の流出問題を受け、「登録業者か否かで、利用者が取引所を選別する可能性が出てくる」(大和総研の矢作大祐研究員)との見方がある。GMOやリミックス、フィスコ傘下の仮想通貨取引所を運営する会社はすでに登録が済んでいる。
金融庁は29日午後、コインチェックに対し業務改善命令を出したと発表した。「登録制度はさらに厳しくなる」との見方もあり、すでに資格を持つ事業者の相対的優位は高まる。
より長期的にみれば、今回の仮想通貨流出問題を契機に、仮想通貨取引に関する利用者保護の仕組みが強化され、業界全体の健全性が高まるとの見方も一部で出ている。仮想通貨関連の2つの業界団体は、統合して新たな自主規制団体を発足させる方針を固めた。安全管理体制や顧客資産の保証について自主規制ルールの整備を急ぐという。
仮想通貨の先行きについて大和総研の矢作氏は「利用上の安全性を高め、先行していた期待に応えることで一段と認知されるかどうかの正念場にある」と指摘していた。仮想通貨関連株も、立ち位置によって優勝劣敗が明確になってくる可能性がある。
【日経QUICKニュース(NQN) 椎名遥香】
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。