東京有数の観光地である台場から1ブロック東の倉庫街。レインボーブリッジの足元にある巨大な白亜の建物に掲げられたのは「UNIQLO(ユニクロ)」の看板だ。赤に白文字の見慣れたモノだが店舗ではない。商品企画から生産、物流までをIT(情報技術)で一元化する改革「有明プロジェクト」の拠点だ。
「売れ筋の欠品が減ってきた」。野村証券の青木英彦マネージング・ディレクターは、ユニクロ店舗の変化に注目する。機能性肌着「ヒートテック」など商品力の強さで知られるユニクロだが、消費者の人気が高いだけに品切れとなることもあった。その販売機会を逃すという小売業にとって痛い状況は、足元で解消されつつあるという。
青木氏は「有明」が改善の一因になったとみる。ファストリは商品企画や生産、販促などを担う部署を1フロアに集約。部門間の垣根を低くし、連携を強化した効果が出てきたという。
一例は気候変化への対応だ。衣料品販売は気温に左右される業態だが、これまでは肌寒くなった局面で秋冬物を前倒し投入しようにも部門間の連携に時間がかかることが多かった。
有明では商品ごとに担当者の席が並んでいるため意思疎通が良くなり、決定までの時間を短縮。船便を予定より早めるといった機敏な対応で「天候変化などで投入時期の前倒しを決めるといった判断をより迅速にできるようになった」(ファストリのコーポレート広報部)。
9~11月期決算は有明効果を示している。国内ユニクロ事業の売上高販管費比率は30.1%と前年同期に比べ1.7ポイント改善した。予備倉庫を減らすなど店舗関連の物流費を抑制。季節の変わり目にタイミング良く秋冬物を投入し、在庫処分を目的とした値下げ販売や販売機会ロスの削減で採算改善につなげた。
岡崎健最高財務責任者(CFO)は11日夕、都内で開いたアナリスト向け説明会で「有明プロジェクトによる改革は2合目か3合目」と語った。適正な在庫水準や商品の投入時期を見極める力を磨き、利益率のさらなる向上を目指すという。
ファストリ株は節目の5万円を突破し、PER(株価収益率)は43倍程度に切り上がった。衣料品販売でライバルとなるオンワードホールディングス(8016、約24倍)やしまむら(8227、約13倍)を大きく上回り、市場の期待値の高さを示す。
Gマネジメント&リサーチの清水倫典代表は「海外でも有明流の在庫管理を進めており、国内外で収益を伸ばす可能性が高い」と指摘する。奇をてらったモノではなくベーシックで機能性の高い商品を幅広い世代に届けるのがユニクロの真骨頂。適正な在庫を維持し、いかに機会ロスを防ぐのか。有明改革の深化が試されている。
【日経QUICKニュース(NQN ) 高橋徹】
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