地方経済が拡大局面に向かっている。日銀が15日発表した1月の地域経済報告(さくらリポート)は全9地域のうち3地域の景気判断を前回(2017年10月)の報告から引き上げた。4月に任期を迎える黒田東彦総裁にとって地域経済の「弱含み」から「拡大」への変化は「続投」への支援材料になるとの見方が出ている。
全国各地でスマホや自動車向けの電子部品や半導体が好調だった。北陸の景気判断は前回の「緩やかに拡大している」から「拡大している」と引き上げ、リポート創刊(05年4月)以来、初めての強い表現だった。東北と近畿も景気判断を引き上げた。関東甲信越など6地域の景気判断は据え置いた。
今回の調査で特徴的だったのは正社員の賃金上昇圧力を企業が意識していることだ。これまでの賃金上昇は非正規が中心だった。景気判断を引き上げた北陸からは「給与の逆転現象を防ぐため初任給の引き上げと25歳までの若年層に臨時の昇給を実施した」との声も出た。
3カ月ごとに発表するさくらリポートで全9地域のうち景気判断の引き下げがなかったのは17年1月から5回連続となった。これは13年4月から14年7月までの6回連続以来になる。13年3月に日銀総裁に就任、18年4月に任期を迎える黒田総裁にとっては最初と最後に地域経済の改善が長期間にわたってみられたことになる。
黒田総裁が就任する直前の13年1月のさくらリポートでは地域経済の判断は「弱含み」や「弱めの動き」と厳しい環境だった。その後、世界経済の回復を背景に輸出や設備投資が拡大、18年1月時点では足元の株高も追い風に個人消費も堅調だった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニア・マーケットエコノミストは「この5年間の地域経済の成長は黒田総裁の続投をサポートする材料だ」と指摘する。
一方、地域経済報告では「賃金が上昇してもコスト転嫁は難しい」「価格の差別化が難しいスーパーでは節約志向が根強い」との声も上がっている。さらに景気回復の足取りを確かなものにできるかどうか、人手不足感が強まるなかで日銀総裁は難しいかじ取りを迫られている。
【日経QUICKニュース(NQN) 片野哲也】
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