日経MJが選出した2017年ヒット商品番付で、西の横綱となったのが「任天堂ゲーム機」。同年3月発売の「ニンテンドースイッチ」が世界的に大ヒットを記録したほか、復刻版の据え置き型(コンソール)の「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」も話題となった。スマホという身近な端末と基本プレイ無料という敷居の低さを背景にモバイルゲームの市場拡大が続く一方で、やや押され気味だったコンソールゲーム市場。かつての雄が復権すると見るアナリストが出てきた。
ゴールドマン・サックス証券のでゲームセクターを担当する杉山賢アナリスト。オフィスでも「調査」と称してゲームに手を伸ばしてしまうほどのゲーム好きを自認する同氏が昨年12月に「『The World of Games』 コンソール:Where the Games Begin」と題した重厚なレポートを発行した。表紙もデザイナーへ発注するなど、気合の入れようがうかがえる。
◆ゲーム業界への関心が高まっている
「“ゲーム”というインダストリーが魅力のある投資対象になっている」(杉山氏)のはなぜか。消費者の娯楽にかける時間が増加するなかでゲームは成長が著しく、1時間当たりの利用額も増加。先進国での需要増に加えて、新興国での可処分所得の増加も追い風となるようだ。急成長を遂げる中国テンセントは利益の大半がゲームで稼ぐように、世界市場において投資家の関心は高まっている。
17年のゲーム業界のトピックスとして、杉山氏は「ニンテンドースイッチのヒット、ドラクエ新シリーズ(「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」)発売、モバイルゲームではモンスト、パズドラなどの既存勢力に替わる存在としてFGOが躍進し、海外では中国・韓国でリネージュがモバイルゲームとして大ヒットした」と指摘。「今後もモバイルゲームやPCゲーム市場が拡大する中でも、コンソールゲームは中心であり続け、重要なプラットフォームとして存在感が増す」とみている。
1ゲーム当たりのプレイ時間が長くできるコンソールゲームは、「ハードコアゲーマーにとって最も安価で高機能なゲームを楽しめる選択肢であり、そのハードコアゲーマーの需要を取り込むことで一層成長する余地がある」(杉山氏)と指摘。ゴールドマンの試算では、市場規模は16年の423億㌦から25年に732億㌦に拡大するという。これは年平均成長率が6.3%でゲーム市場全体(5.0%)よりも高い水準を見込んでいる。
一般的に抱きやすい懸念はスマホによるモバイルゲームとのユーザーの奪い合い。だがモバイルのゲームはコンソールIPから派生した別のコンテンツ(多くの場合にはライトなもの)である事が多く、ユーザーもライト層が中心。カニバリゼーション(共食い)の懸念は乏しい。むしろ、「ポケモンGo」の社会現象を巻き起こした直後にコンソールゲームソフトで販売された「ポケットモンスター サン・ムーン」が大ヒットしたことから、モバイル市場が先導役になる形でコンソールに追い風が吹く構図も見えている。
◆構造的な欠陥=コンソールの買い替え強要も克服
コンソールゲームのハードは6~7年程度で更新されてきたが、これは技術革新のためには必要不可欠な事象だ。ただ、前世代ハード用のソフトが使えなくなり、ユーザーには新たなコンソールの買い替えを半ば強要する展開になりがちだった。
ソフトメーカー側は制作に関わるコスト負担増などのデメリットもある。技術革新面ではPS2→PS3で性能が飛躍的な進化を遂げたが、それ以外はアップグレード的な変化に留まる。「全てのコンコールがインターネットと接続された状況を勘案すると、今後は『刷新』ではなくソフトの互換性があるなどの『更新』になり、ハードのビジネスからインストールべースに移行して、ゲーム内課金のARPUが上昇する」(杉山氏)。
さらに将来のポイントとなるのが携帯性=ポータブルだという。既に任天堂が実現して見せたが、このスタイルが普及するかどうか。電力消費量の縮小といった技術進歩の恩恵を受けるテーマにコンソールも浮上することになる。
◆グローバル比較で日本のゲーム関連企業はディスカウント?
改めて投資の視点で関連企業を考察してみる。杉山氏が注目するのがバリュエーションの違いだ。欧米のゲーム企業はPERが23倍程度まで買い進まれている半面、日本のゲーム株はPER16倍程度にとどまる。
杉山氏はこのような格差が生まれた背景に「欧米企業がコンソ-ルゲームのデジタルシフトを推進した一方、日本企業はモバイル事業への注力を進めたことが背景にある」とみる。
ただ、ダウンロード、ゲーム内課金が全体の3割程度に過ぎず、今後の拡大余地が大きいことや、従来のように業績の浮き沈みが少なくなってきていることを勘案すると、日本のゲーム株には割安感があるという。
業績の安定成長とマージン拡大が見込まれる魅力的な買い推奨銘柄はソニー、Electronic Arts、カプコン、スクウェア・エニックス、Take-Two Interactive、Ubisoftだ。
【QUICKエクイティコメント・本吉亮】
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