ビッグデータと株式投資――。耳障りはいいものの、具体的なマネタイズ=収益化を問い始めると実はイメージが難しい投資テーマだ。グーグルを傘下に置くアルファベットやフェイスブックも膨大なビッグデータをこぞって集めているが、現時点でビッグデータがどこまで直接的に収益に直結しているのか、今後どんな可能性があるのか、計り知ることは容易でない。しかし、ある企業が生み出した商品が国際的に進展するビッグデータ競争における日本企業としての新たな可能性を秘めているとの指摘が株式市場で出てきた。
UBS証券でインターネットセクターを担当する武田純人アナリストの11日付のレポートが興味深い。タイトルは「インターネットセクター『最新の論点』 BigData 争奪戦、日本企業の戦い方」。レポートの中で武田氏は「日本のインターネット業界が ZOZOSUIT (ゾゾスーツ)にざわつくのはなぜか?」と書き始めている。
※UBS証券の武田純人アナリスト
ゾゾスーツで何ができるのか
ゾゾスーツとは、スタートトゥデイ(3092)が11月下旬に発表した着るだけで採寸ができるセンサー内蔵の服だ。アパレル業界の目線だと同社のプライベートブランド(PB)の売れ行きなどに関心が向いてしまいがちだが、武田氏が着目したのは次の2点だ。
<1>ニッチビッグデータ
スタートトゥが取得を目指すデータが、いまだ誰もリーチしていない”Big Data”、言わば”Niche Big Data(ニッチビッグデータ)” であること。(アルファベットやアマゾンなどデータの)グローバルメジャーとしては収益化の道筋を即座には描きにくく、取組みを判断することは容易ではない
<2>マネタイズ
マネタイズ面でのアドバンテージ。PB商品へのデータ活用、既存ECサイトでの活用、データの第三者への提供によるプラットフォーム化
<1>については武田氏は、「グローバルメジャーは検索履歴、行動履歴、決済データなど汎用性のあるデータをこぞって取得しているが、規模の競争は日々激化しているうえ、更新頻度が絶えず発生するなど負担が大きい。一方で、ゾゾスーツは採寸データを取得するもので、一度取得してしまえばよほどの体形変化が起きない限り更新頻度は少なくて済む。それだけに、先行してデータを取得するメリットは大きく、マネタイズの方法も考えやすい」と指摘。
マネタイズについては具体的なビジネスモデルも浮かびやすいようだ。「スタートトゥデイ自身が立ち上げたPB商品へのデータ活用はもちろんのこと、ゾゾタウンに出店するアパレルブランドの商品購入の際にも活用ができるとみている」という。
※センサー内蔵のゾゾスーツ(出典:スタートトゥデイ)
服だけじゃなくデータそのものがおカネを生む?
これはスタートトゥの手元にあるデータを他の企業も利用すればいいという発想だ。ニッチビッグデータをプラットフォーム化して外部に提供し、利用料というマネタイズも将来的に可能となるかもしれない。
加えて採寸データがあることで販売機会のロスが減る可能性も大きい。「ECサイトで購入の手続きを進める際に、在庫切れやサイズ選択の画面で立ち止まることで消費者の購買欲が削がれてしまうことあるが、それも採寸データがあることで決済に至る過程を短縮することができる。サイト閲覧者の購買率(コンバージョン)の向上にもつながる」。
そのほか、固定のブランドで購入を続けがちな消費者に「ブランドスイッチ」の機会を提供する可能性も秘めていると武田氏は考える。ブランドごとに微妙に違うサイズも、採寸データをもとにECサイトで自分の体型にあう服のマッチングが容易になれば、これまで体験してこなかったブランドへ乗り換えが進む可能性が高まるというものだ。
ネットの世界では今、米アマゾン・ドット・コム、グーグル、フェイスブック、中国のアリババやテンセントなどが激しいビッグデータの争奪戦を繰り広げているが、「日本勢は国際競争から取り残されている」(武田氏)。スタートトゥは日本企業としてのあるべき戦い方の一類型を示すのか。また、これに続くような企業が出てくるのか。注目を集めそうだ。
※UBS証券はスタートトゥデイをカバレッジ対象とはしていない
【QUICKエクイティコメント・本吉亮】
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