中国での環境意識の高まり:自転車利用、カーシェア、植樹 HSBCレポート

 QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は、HSBC中国のデビッド・リャオ(David Liao)社長兼CEOがレポートします。

 

11月6~17日、ドイツのボンで第23回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP23)が開催された。COP23では、世界中の政府関係者が一同に会し、気候変動に関する世界的取組の今後について協議する。そこへ世界各国の政府にとっては意外な協力者が出現した。中国の13億8,000万人の消費者である。

中国の過去数十年にわたる飛躍的な経済成長は、人口の大半を貧困から脱却させたが、環境を犠牲にしてきたことは疑いようもなく、世界第2位の経済大国である中国の温室効果ガス排出量は世界最大である。中国の重工業が関連する大気汚染のニュースや、スモッグで包まれる国内の大都市のイメージが度々報じられている。

このため中国の消費者が環境を意識しているとの見方には説得力がないかもしれない。

しかし、中国の環境汚染がきわめて広範に拡大する兆候が浮上し、国民は気候変動に敏感になり新たな対策が必要と考えるようになった。

例えば市場調査会社のイプソスが8月から9月にかけて世界各国で実施した調査(※1)によれば、国内の気候変動を懸念する回答者が最も多かったのは中国で、回答者の24%が懸念事項上位3つのうちの一つに気候変動を挙げている。中国に次いでカナダが21%だったが、調査対象の26ヵ国の平均はわずか10%だった。

※1 Ipsos, What Worries The World Survey, September 2017
https://www.ipsos.com/ja-jp/what-worries-world-autumn-2017J


同時に、中国で急速に拡大する中間所得層の間では、健康と生活の質に関する要求が一段と高まっている。こうした人々の多くはテクノロジーに詳しく冒険心が旺盛で、自分たちの嗜好や要望に応えようと革新的な民間企業が提供する新しいプロダクトやサービスを積極的に試そうとしている。

顕著な事例として、昨年1年あまりの間に急速に普及した自転車シェアリングが挙げられる。中国では一時は街路からほとんど姿を消した自転車が、現在は再び息を吹き返している。今や中国の多くの都市の街角や地下鉄の出口で、市民がモバイル機器をスキャンしてレンタル自転車の鍵を開け、毎日の通勤の最後の交通手段あるいはスーパーマーケットまでの足として利用する光景が見られる。

いたるところに自転車が駐輪されることを懸念する見方も一部にはあるが、こういった便利で低コストの取組をきっかけに、より健康的で経済的負担が少なく環境保全にもプラスとなるこの交通手段を、数百万人の中国人が再び愛好するようになっている。

自転車シェアリングサービスの新興企業として、中国のテンセントや米国シリコンバレーのベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルからの投資を得ているモバイクによれば、同社の1億人に上る顧客の自転車の利用はこの1年以内で倍増し、自動車での移動を半分に減らしたとされる。

さらにモバイク社は、10万人の顧客を対象に行った調査を基に、同社のサービス利用者は2016年半ばに計画がスタートしてからの1年間で、二酸化炭素排出量を54万トン減らしたと推計している。これは自動車を1年間に17万台減らしたことに相当する。

自動車を選好する人々にとっても、中国はカーシェアリングの試験台となりつつある。ドイツのミュンヘンを本拠地とする経営戦略コンサルティング会社ローランド・ベルガ―は、中国国内でカーシェアリングに利用される自動車の数は、大気汚染を抑止したい政府の取組を背景に、2025年まで毎年45%のペースで増加すると予想している。(※2)

※2 Roland Berger, Car Sharing in China (6 April 2017)
https://www.rolandberger.com/en/press/Car-sharing-in-China-Size-of-fleet-to-grow-45-percent-per-year-through-2025-%E2%80%93-h.html

環境に特に配慮している事例として、上海拠点のEVカードは23都市で8,000台を超える電気自動車を短期レンタルしている。利用者はモバイル端末のアプリとキーカードを使って、1分間当たりわずか0.50人民元ないし1日当たり180人民元でレンタルできる電気自動車を探すことが可能だ。180人民元は30米ドルに満たない金額である。

政府の振興策もあって中国の電気自動車市場も活況を呈している。昨年1年間に中国では25万7,000台の電気自動車が登録された。これは世界全体の電気自動車登録台数の55%に相当し、米国での登録台数の3倍である。

また中国当局が化石燃料自動車を将来禁止することも視野に入れていることから、電気自動車の市場は急速な拡大を続けるだろう。中国当局がこうした取組みを検討していると9月に報道された一方で、今年に入ってからフランスや英国でも同じ趣旨の発表が行われた。

より一般的な市民生活レベルでも、環境保全の考え方は中国人の日常に浸透しつつある。2016年8月にはユビキタス・モバイル決済アプリのアリペイに「アント・フォレスト」というミニアプリが導入された。このアプリの利用者はウォーキングやネットショッピング、請求書のオンライン決済などを通じて「グリーンエネルギー」ポイントを獲得する。アント・フォレストに十分なポイントを貯めた利用者は、それを実際の苗木と交換し内モンゴル自治区の砂漠に植樹することができる。

国連の環境プログラムと協調してこの取組みを主導しているアント・ファイナンシャルの報告によれば、このアプリが導入されてからの6カ月間に2億人のユーザーが参加し、この間のユーザーの行動変化によって推計15万トンの炭素排出量が削減され100万本を超える苗木が植樹された。

世界全体に突き付けられている環境問題に比して、こうした動きの全てはほんのわずかな前進にすぎないかもしれない。しかし中国の人口と経済規模の大きさを考えれば、こうした進歩は中国国内だけでなく世界全体にとって重要である。

またこれは中国で急速に増加する中間所得層の要求に応えたい企業にとっての教訓でもある。英国のベビー服販売業者であれ、日本の自動車メーカーであれ、あるいはアメリカのレストラン事業者であっても、中国の消費者が製品やサービスの価格や利便性だけでなく環境への影響を一段と意識し始めたことには注意を向ける必要がある。

消費者とともに中国の政府当局も、気候変動に関するパリ協定を順守するとした上で、エネルギー消費抑制や排出ガス削減、再生可能エネルギー創出の取り組みを強く推進している。これらによって地球環境は改善されていくだろう。

 

 

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