トランプ米大統領は2日、米連邦準備理事会(FRB)の次期議長にジェローム・パウエルFRB理事を指名した。ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)など複数の米メディアが正式発表前の1日にパウエル氏の昇格を報じたことを受け、QUICKでは発表直前、次期議長について市場関係者に聞いた。
※この記事はQUICKのオプションサービスである「QUICKデリバティブズコメント」で2日に配信されたニュースをまとめたものです。
▼「金融規制は緩和方向に」 大和証券チーフエコノミスト 永井靖敏氏
パウエルFRB理事は、これまでイエレンFRB議長の金融政策を支持していたことから、政策の急変はないだろう。理事として、5年以上FRBに在籍しているため、実務上の不安もない。投資ファンドの経営を経験したことから市場との対話という点についても、安心感がある。ただ、金融規制については、これまで緩和すべきと主張してきた。議会共和党の意向も受け、緩和方向に修正されそうだ。金融規制が緩和されると、マクロプルーデンスでバブル発生を抑えない分、金融政策で行き過ぎた資産価格の上昇に目配りすることも考えられる。
▼「マエストロではなく劇場支配人」 東京海上アセットマネジメント チーフファンドマネジャー 平山賢一氏
政府による市場への介入が強化されている昨今、エコノミストによる経済分析よりも政治的立ち回りが重視されているだけに適任と言えるでしょう。マエストロではなく劇場支配人が求められているわけです。ネゴシエーターに徹すれば市場は安定化するものの、それに我慢できなくなれば長期金利のボラティリティ創発の淵源地なるはず。
▼「副議長がテイラー教授になると、市場はややタカ派的だと受け止められるかも」 シティグループ証券 相羽勝彦氏
パウエル氏については既に市場は織り込み済みで、現行の金融政策スタンスの継続性が保たれる感じでしょうか(弊社では、来年3回利上げするという従来の見通しに変更はありません)。まだ決まっていない副議長がテイラー教授になると、市場はややタカ派的だと受け止められるかもしれません。
▼「レバレッジ比率の規制緩和を強く推進しない」SGHマクロ・アドバイザーズのサッサン・ガラマニCEO
パウエル理事が次期FRB議長になったとしても、ドット・フランク法(金融規制改革法)の大手銀行のレバレッジ比率に関する規制緩和を強く推し進めることはないだろう。注視すべき点はパウエル次期議長が今後FRBが発信する政策のメッセージに金融安定を組み込むかどうかだ。低金利が長引く中で、金融市場が不安定化する可能性を懸念している。
副議長の人事に関してはテイラー氏やウォルシュ氏の可能性は低いとみる。経済学者出身で可能性があるのはグレン・ハバード米コロンビア大教授、グレゴリー・マンキュー教授、ピーター・アイルランド米ボストン大学教授、チャールズ・カロミリス米コロンビア大学教授などだろう。
▼「理事の指名が重要になる可能性も」 野村證券 中島武信氏
パウエル氏が指名されたことは、市場の予想通りであり、短期的な影響は限定的と見ます。ただし、テイラー氏、ウォーシュ氏が指名される可能性もゼロではありませんでした。パウエル氏が指名されたことで、サプライズが回避されたことや、現行政策の維持の可能性が高まったため、低ボラティリティが継続し易くなるという効果はあるかもしれません。
経済学者出身のバーナンキ前議長、イエレン議長と異なり、パウエル氏は弁護士出身であるため、バーナンキ前議長、イエレン議長と比べて、金融政策について、先進的な取り組みを行う可能性が低いことは、市場にとっては、政策の見通し易さに繋がるかもしれません。
実際、パウエル理事はこれまで、バーナンキ前議長およびイエレン議長の提案する政策を一貫して支持してきました。パウエル理事自身が金融政策についてどれだけ強く自身の意見を主張するかは不透明です。
現在、FRB理事は3名の空席があり、イエレン議長が2月の議長退任とともに理事のポストも辞することになれば、空席は4つになります。パウエル氏が独自の金融政策感を強く打ち出すわけではないとすれば、大統領が指名する他のFRB 理事の顔ぶれも、非常に重要になってくるとみています。その意味では、他のFRB理事の指名次第では、現行政策とは異なる政策が出てくるリスクは意識しておいたほうが良いかもしれません。
▼「利上げペース速まる可能性も」 クレディ・スイス証券 白川浩道氏
パウエル理事指名であれば、規定路線の印象。金融政策運営に大きな変化はないとみられるが、今後、共和党保守派はより早いペースでの利上げを迫る可能性があり、金融規制緩和と引き換えに、FRBも利上げペース加速に応じるのではないか。また、副議長にテイラー教授が指名される可能性もあり、この場合、利上げ加速期待が強まることになろう。債券市場は来年春にかけて売られやすい展開か。
▼「クレジット市場にとって最良のシナリオ」 みずほ証券 大橋英敏氏
ハト派色が強く”適温相場”継続の期待が高まることは、クレジット市場にとって最良のシナリオ。パウエル氏は金融実務経験も豊富で、今後の金融規制緩和への期待も高い。
▼「学者肌の議長が続き、それに慣れてきた市場との対話が上手くいくのか?」 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 服部隆夫氏
サプライズはないですね。ただ、パウエル氏はこれまで金融規制や制度についての講演が多く米経済や景気については、イエレン議長を中心とする大勢の意見をまとめる程度にとどまっていました。その点、イエレン路線を踏襲するといえる反面、経済の判断や金融政策についてはどうなるか心配です。弁護士ですし、経済博士号も持っていないと思います。これまで、グリーンスパン、バーナンキ、イエレンと学者肌の議長が続きそれに慣れてきた市場との対話が上手くいくのか、注目しています。
▼「トランプ政権の意向にそった点を重視したい表れ」 みずほ総合研究所 高田創氏
パウエルFRB理事が事前予想において10月以降、ほぼ独走状況でしたので市場はかなり織り込んでいた感じです。パウエル理事は現在イエレン議長のもとで金融政策を担ってきましたので、金融政策の先行きにも当面大きな変化はないと考えられます。久しぶりに、学者やエコノミストでない法律家出身の議長になることは、現在の経済環境が良好で、”平時”の状況になってきたことを反映し、むしろトランプ政権の意向にそった点を重視したい表れと考えられる。
▼「優秀な人だと思いますが、未知数です」 野村證券 宍戸知暁氏
優秀な人だと思いますが、インフレが急上昇するなど想定外の事態になって、イエレン議長が作ったゲームプランを破棄しなければならなくなった時に正しく行動できるかは未知数です。
▼「無難。難があるとすれば面白くないことでしょうね」 SMBC日興証券 丸山義正氏
現状維持路線ですのでサプライズは無し。トランプ大統領は結局、自らの財政政策に有利なFRB議長を選んだ。パウエル氏は官僚経験もあり、無難にこなし、イエレン路線を維持するのでしょう。難があるとすれば、面白くないことでしょうね。特に経済学者が二人続き(かつその前はグリーンスパン)、経済論議に慣れたのちでは退屈かも知れません。
▼「マーケットへのインパクトは小さい」 東海東京証券 佐野一彦氏
事前に織り込み済みなので、マーケットの初期反応通り、大きな影響はないだろう。実際に就任してみないと分からないとはいえ、基本的に現在の政策を踏襲するスタンスだ。今後のFRBの利上げペースに関しても、経済や金融動向をみながらマーケットにインパクトを与えないよう柔軟に対応するだろう。
▼「景気にとっても金融機関にとってもプラス」 マネックス証券 大槻奈那氏
金融政策については、基本的にはイエレン氏のゆるやかな利上げを踏襲すると想定されています。加えてパウエル氏は、「規則・規制の強化が金融市場の諸問題を解決する最善策とは限らない」と最近発言しているので、景気にとってプラスと言うことに加え、金融機関にとってもポジティブと思います。
▼「きわめて常識的な人選で、マーケットに安心感を与える」 日本総研 翁百合氏
共和党主流派に近く、イエレン路線を継承できるという意味で、きわめて常識的な人選で、マーケットに安心感を与える人選だと思います。
▼「トランプ氏は株高を取った」 銀行 執行役員
パウエル新議長なら概ね織り込んでいると思います。あとはテイラー氏が副議長に入るかどうかですか。トランプ大統領はパウエル氏よりテイラー氏を推していたと思いますが、結果的にはトランプ氏は株高を取ったと言うことですよね。安倍首相を見習ってのことでなんでしょうか。低迷した支持率を回復するには手っ取り早いんでしょうね。
▼「利上げ水準の決定など困難な仕事が待ち受ける」 バンク・オブ・シンガポール
パウエルFRB理事が次期議長となった場合は、経済の過熱を防ぐための金利引き上げの水準を決めたり、景気後退に対する対策を講じる必要が任期中に出てくる可能性がある。困難な仕事が待ち受けているだろう。経済学者でないことから金融政策の議論に役立つ見方を提供することが出来るかもしれないが、博士号(Ph.D.)を持つFOMC参加者の考え方に影響を及ぼすことはないとみる。
▼「イエレン議長の再任なく残念」 投資顧問 ファンドマネージャー
トランプ大統領らしいのですが、イエレン議長は、金融政策の正常化をうまくやってきたと思いますので、再任されないのは残念です。今後の政策運営への政治的な介入により、FRBに対するマーケットの信頼感が薄れていくかもしれません。世界的に景気が拡大している間は大きな問題にならないと思いますが、環境が変わったときにどうなるか注目しています。
▼「バランスシート正常化後は金利重視の金融政策に」 HSBC
パウエル理事がFRB議長に就任した場合、バランスシート正常化後の長期的な金融政策の枠組みを決める必要がある。現行のFRBは政策金利を使って金融情勢に働きかけるが、金融危機前の金融政策に戻すかだ。金融危機前は準備高を調整して金融情勢に働きかけた。ただ、金利調節による金融政策を支持する公算が大きい。金利調節の方が実施が簡単で、市場との対話も容易だからだ。
金融規制緩和については、自己勘定取引を禁止するボルカールールを緩和し、ストレステストを簡素化する可能性がある。
▼「共和党保守派とトランプ大統領の板挟みで苦労しそう」 市場関係者
副議長や理事が空席だらけで、陣容が良く分かりませんが、共和党保守派の推すタカ派が増えそうな雲行きで、そうなれば低金利大好きなトランプ大統領との板挟みで苦労しそう。その意味では、フィッシャー前副議長という後ろ盾に支えられていたイエレン氏とは大違いですね。いずれにせよ米国経済が変調をきたせば、外需頼みの日本経済への影響も大きいところ、是非とも頑張っていただきたいものです。
▼「キャスティングボートを誰が握るのか?」 銀行 ディーラー
今までは議長が握っていた政策判断の根幹となるマクロエコノミー分析のキャスティングボートを、今後は誰が握るのか。ダドレー?ブレイナード?空席を埋める新理事?完全にイエレンとの連続性が保たれるわけではなく、案外タカ・ハト度合いに差があると思います。
▼「考えは主流だが、危機対応はイエレン議長と異なる」 パンテオン・マクロエコノミクス
パウエルFRB理事が議長に就任しても、金融政策の面ではFRBをかき乱すことはないだろう。金融政策に関する考え方は主流だからだ。ただ、ショックに対する対応はイエレン議長と異なる可能性がある。経済学者でないことからFRBスタッフやFOMC参加者から手引きを受けるとみるが、理事に4つ空席があることから不透明要因が残る。