年明けから急速な円高・株安の流れが続いています。「この動きが当面も続くのでは」と懸念させるような統計が発表され、金融市場の専門家が注目しています。
米国の金融政策が利上げに舵を切ったにも関わらず、海外投機筋が3年ぶりに円先物(対ドル)の買い越しに転じたのです。
海外勢が3年ぶりに円を買い越し…「中国」と「原油」を警戒
米商品先物取引委員会(CFTC)が日本時間の1月9日に発表した海外投機筋の円の持ち高(1月5日時点)は4103枚(約512億円)の買い越しとなっています。2012年10月16日以来、およそ3年3カ月ぶりで、日本経済新聞は「ヘッジファンドの相場予想が円安から円高に転じたことを示している」と報じています。アベノミクス開始以来、初めて円の買い持ちに転じたことになります。
教科書的に見れば「米国が利上げに動けば、ドルの金利が上昇し、為替市場でドル高が進む」と考えたいところですが、市場の動きはその逆です。昨年12月に米国が利上げに踏み切って以降、円高・ドル安が続き、実際に海外投機筋も円の売り姿勢から買い姿勢に転じているのです。
いったい何が起こったのか。
確かに昨年後半まで、海外投機筋は、利上げへの期待から円売り・ドル買い姿勢でした。ただ実際利上げが発表されれば、いったん材料出尽くしの機運が高まります。そこに中国経済や原油安といった不安材料が湧き起これば当然、リスク回避の意識が強まります。世界経済不安からドルの利上げペースが鈍る、つまり米国の経済成長が順調に進まないという不安が強まってしまいます。
3月期決算の主要企業の15年度下期の想定レートは1ドル=120円台が中心。さらなる円高は日本の輸出企業の株価の重荷にもなります。
8日発表の昨年12月の米雇用統計では、非農業部門の雇用者数が市場予想を大幅に上回ったが、相場は反転しなかった。(中略)
米雇用統計が改善したのに円高・株安が止まらないのは、市場参加者の関心が「米国の金融政策より人民元安や原油安といったリスク要因に移っている」(三菱東京UFJ銀行の内田稔氏)ことが大きい。不安が不安を呼び相場にブレーキがかかりにくくなっている。
米雇用統計の発表直後にはいったん1ドル=118円85銭まで円安となったが、そこから一気に反転し、117円台前半まで円高が進んだ。
国内FX参加者は逆張り…ドル買い・円売り持ち高を堅持
この海外投機筋の動きがどれだけ珍しい動きだったのか、そして国内の個人投資家、つまりFX(外国為替証拠金取引)参加者はどのように動いたのか。
以下のチャートは、直近3年間の海外投機筋(ピンク)、国内店頭FX取引(青)、くりっく365(緑、東京金融取引所に上場するFX)の、それぞれのドル円の持ち高動向です。ピンク色、つまり海外投機筋の持ち高の推移(計算値)を見ると、今年に入り、突然、ドルの売り越し(=円の買い越し)に転じたことがわかります。
また米国が利上げに踏み切った昨年12月以降、海外投機筋のドル買い持ち高が減るにつれ、円高が進んでいることが分かります。
※このチャートの詳細はこちらのページで確認できます。
この状況下で、国内のFX参加者はどう動いたか。同じ週のくりっく365、店頭FX統計ともに、買い越しを維持。3つの統計の中で、先行的に公表される店頭FX統計を見ると、先週末時点(1月12日にサイトで公開)で依然、ドルの買い越しを続けていることがわかります。年初からの相場急変時、海外投機筋の円買い・ドル売りに、国内のFX参加者は追随しなかった様子が見てとれます。
外国為替市場参加者の「波」を見極めろ
このチャートから、この先どうなるか、少し頭の体操をしてみましょう。
海外投機筋のドル円持ち高の推移をみると、2015年の春や秋のように、海外投機筋のドル円の買い越し持ち高がトントンになるまで縮小したあたりが、ドル円相場の底になっているようです。とはいえ、当時は米国の利上げ期待のもとにあった相場。実際に米国が利上げに踏み切った足元の相場で、同じ動きになるかは不透明です。
一方、国内FX参加者の動きを示すくりっく365、店頭FX統計は、ドル円相場が軟調になったとき、ドル円の買い持ち高を増やす逆張りの姿勢を見せています。同じ動きを繰り返すのであれば、戻りを狙った下値での買い主体になると考えられます。
ただ、国内FX参加者が、いつ、海外投機筋の動きに追随するかは不明です。今後の円相場の動向を見通すためにも、海外、国内、各参加者の持ち高の「波」を見極め、波に大きな変化が起こっていないかどうかをチェックすることが必要となりそうです。