金融庁の森信親長官の改革の中でも企業が関心を寄せているのが情報開示の新ルールだ。企業がアナリストなど特定の人に未公表の情報を提供した場合、他の投資家にも情報が伝わる「フェア・ディスクロージャー・ルール」の策定が進んでいる。新ルールはいったいどんなものなのか。金融審議会で策定中のルールのたたき台などを提出しているフィデリティ投信の三瓶裕喜・調査部長に聞いた。(QUICK端末で2016/12/09に配信された記事です)
明らかに異質だった日本の慣行
――新ルールの策定が急ピッチで進んでいます
「2014年4月に金融商品取引法改正され、インサイダー取引について会社関係者による重要事実の伝達に規制が導入された。その後、証券会社のアナリストが企業の未公表情報を入手し顧客に伝達した件で金融庁が業務改善命令を出した事件が起きた。企業からは情報開示についてのルールを求める声が多く出ていた」
――「フェア・ディスクロージャー・ルール」とはいったいどんなものでしょうか。
「上場企業が株価に影響するような未公表の情報をアナリストなどに提供した場合、ホームページなどで速やかに情報開示を促すルールだ。欧米にはすでに存在する仕組みでこれまで日本になかったのが問題だった」
「決算情報を証券業界の関係者などに事前に伝えるようなかつての日本の慣行は世界から見て明らかに異質だ。日本企業が海外投資家に信頼して投資をしてもらうためにも新ルールは必要だろう」
「証券会社のアナリストも取材に及び腰」
――新ルールにより企業が委縮して情報開示に消極的になるのではないでしょうか。
「金商法の改正などで現場は混乱しており、証券会社のアナリストも取材に及び腰になってしまっている。何が良くて何が問題なのかを示す必要がある。新ルールは『未公表の確定的な情報』で投資判断に重要な影響を及ぼすものを対象とし、基本的には決算情報が該当する。インサイダー取引規制は軽微基準があるため、決算情報でも規制の対象外になりかねない」
「新ルールのもとでいくつもの事例を重ねていき、投資家と企業がより良い情報開示の仕組みを作っていけば良い。企業が過度に消極的にならないようにするため、現時点では課徴金などは考えられていない。経営者が決算の情報を事前に話してしまった場合、企業は速やかに情報を開示すればよい。また、情報を受け取った人も、重要だと判断した場合は企業に情報開示を促す必要がある」
企業は「確定した情報は社内でとどめず、素早く開示するのが重要」
――企業側からは詳細なガイドラインが欲しいとの声があります
「細かいルールを作ると制度が画一化、形骸化してしまう恐れがある。新ルールは原則を指し示すものにとどまるのではないか」
――企業は情報開示とどう向き合うべきでしょうか。
「確定した情報は社内でとどめず、素早く開示するのが重要だ。企業の規模が大きいほど重要な情報を知る人が増えて、どこかに漏れる可能性が高まる。海外のグローバル企業でも数字が固まり次第に決算を発表、詳細な説明をその後にするなど情報管理に気を使っている」
【QUICKコンテンツ編集グループ:片野哲也】