金融庁が業界を大きく改革しようと動いている。就任2年目の森信親長官のもと、金融機関が顧客本位の運営をするように促し、公正な情報開示や私設取引所システム(PTS)の規制緩和にも動く。個人の金融資産を貯蓄から資産形成へと変えていく森改革を業界関係者はどう見ているのか。カブドットコム証券(8703)の斎藤正勝社長に聞いた。(QUICK端末で2016/12/09に配信された記事です)
「金融庁は相当な覚悟」
――金融庁の足元での改革への動きをどう見ていますか。
「金融庁は相当な覚悟を持っているようだ。これまでの『貯蓄から投資』のフレーズを『貯蓄から資産形成』と変えた。既に資産を持っている人ではなく、これから資産を作ろうとする、より大衆向けの金融政策を考えているのだろう」
――夜間の信用取引を私設取引所システム(PTS)で解禁する動きが出ています。
「個人投資家は2006年ごろまでは信用取引の利用は少なかったが、足元では1日の取引のうち4割がショート(空売り)の時もある。夜間で信用取引が可能になれば昼間に企業に勤める人たちも含めて株式の売買は活性化するだろう。FXの膨大な取引量を考えれば、株式でも夜間での信用取引の需要は大きい」
東証でも夜間の株式信用取引ができないと「違和感」
――PTSの信用取引の解禁で東証との競争が激しくなるのでしょうか。
「PTSで夜間の信用取引ができる一方、東証で夜間取引ができない制度になるとすれば違和感が残る。東証でも夜間の現物株の信用取引も可能にして、希望する証券会社が夜間の取引に参加すれば良い。仮に東証の取引が時間延長されずPTSの夜間取引でも信用取引が可能となれば、個人投資家の間でも一気に人気がたかまるだろう。一方で昼間の取引で信用取引をPTSでも解放したとしても、個人にとってメリットは限られるのではないか」
――東証の今後はどうなりますか。
「金融業界のグローバル化が一段と進めば『アジア時間』での取引を巡って、世界各国の取引所間で競争が激しくなる。現状でも日経平均先物の取引の需要の一部をシンガポールが獲得している。東証の競争相手は国内のPTSではなくシンガポールや上海、インドの取引所だ」
税金の仕組みを変える必要も
――金融庁は超高速取引(HFT)業者を登録制にする方針です。
「HFTを巡っては実体がよくわからない点が問題なのだろう。実際の売買でも、あたかも数千人が取引に参加しているような注文状況を演出しているようだ。当社の個人投資家からも『突然、注文が消えたりするので取引が怖い』といった声を聞く。このため『見える化』を進めるのは正しく、グレーな取引に対するけん制機能として働くことを期待している。ただ、全てのHFTが悪玉というわけではないと断っておきたい」
「良くも悪くもHFTの取引が減って流動性は小さくなるかもしれないが、『ストップ狩り』のような手法がなくなる可能性もある。金融庁の方針は市場に監視カメラを付けるようなものだ。事後チェックに過ぎない側面はあるものの、まずは現状を把握するのが大事だ」
――金融事業者が社内で独自に売買注文を付け合わせる「ダークプール」の取引の存在感が増しています。
「ダークプールにおいて日経平均先物の売買が広がっている。現状でが東証やPTSよりもダークプールでの売買に対する規制が緩い。最もプロ向けであるダークプールの規制を厳しくする必要があるのではないか」
――金融庁の改革で投資から資産形成の流れが強まるでしょうか。
「個人にとって投資がしやすい環境を作ろうとしているのは評価できる。また、投資から資産形成の流れを一段と進めるためには税金の仕組みを変える必要もある。キャピタルゲインとデリバティブの損益通算ができないのは世界でも日本だけだ。相続税でも株式より不動産が有利な現状を変えていくべきだ」
【QUICKコンテンツ編集グループ:片野哲也】