広告代理店最大手の電通で起きた過重労働の問題は、雇い主、雇用者の双方が働き方について改めて考えさせられたのではないでしょうか。政府が取り組む長時間労働の是正などを柱とする「働き方改革」の意見交換会において、安倍晋三首相もこの問題を重く受け止めていると述べ、改革の実現に意欲をみせました。労働市場は今、大きな転換点を迎えようとしています。
政府は名目国内総生産(GDP)を戦後最大の600兆円(2014年度は489兆円)に引き上げるため、「ニッポン一億総活躍プラン」を提唱しています。このプランを実現させるための最大のカギが働き方改革であり、この改革の骨子が「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金(非正規雇用の待遇改善)」「テレワーク」「高齢者の就業促進」です。政府はアベノミクスを完遂させるため、働き方改革に本気です。
相場格言の一つに、政策関連の業種や銘柄は値上がりしやすいことを意味する「政策に売りなし」という表現があります。この働き方改革というテーマを活用しない手はないでしょう。
トヨタなど大手企業がこぞってテレワークを導入するワケ
働き方改革の中でも特にホットなテーマといえば「テレワーク」です。テレワークとは、情報技術(IT)を利用してオフィス以外の自宅などで働くこと。場所や時間にとらわれず働けるため、子育て中の女性の活用や、介護を必要とする家族を持つ働き手の支援策として期待が集まっています。1970年代の米国でマイカー通勤による大気汚染や交通渋滞を緩和させるために始まったことが起源らしいです。
テレワークの主なワークスタイル
国内では、大手企業を中心にテレワークの導入および対象とする従業員の範囲を広げる動きが相次いでいます。総務省の調べによると、2015年にテレワークを導入している企業数は調査対象全体の16.2%と、前年比4.7ポイント上昇しました。例えばトヨタ自動車は、ほぼすべての総合職にあたる約2.5万人の社員を対象に在宅勤務制度を取り入れたと報じられています。各社がテレワークを導入する主な理由は政策の影響に加え、柔軟なワークスタイルで優秀な人材を確保したいためです。そのほか、従業員の健康など非財務情報も評価するESG投資が世界的に広がっていることや、企業の社会的責任(CSR)の観点から取り入れていることも考えられます。
日本マイクロソフトが本腰
テレワークを導入する企業の増加を受けて、早くも市場争奪戦が熱を帯びてきました。足元では日本マイクロソフトが一歩リードしているようです。同社は数年前からまず自社でテレワークを導入して効果を実証。10月には企業や自治体など833法人を巻き込んだ「働き方改革週間 2016」というイベントを開催しました。このイベントに賛同した一部企業を挙げるとKDDI(9433)、NEC(6701)、資生堂(4911)、東芝(6502)、NTTドコモ(9437)、パソナグループ(2168)、島津製作所(7701)などです。
日本マイクロソフトはテレワーク市場で主導権を握り、同社の法人向けクラウドサービス「オフィス365」の売上増加を狙っているようです。なお、ソフトバンク・テクノロジーは、このオフィス365と連携可能なテレワーク向けのサービスを展開しています。
そのほか、テンプホールディングスの子会社は、パソコンの利用状況から従業員の勤務状況を把握するサービスを開始しました。オフィス外での勤務が中心になるため、こうしたサービスや情報漏洩問題に対応する製品・システムも需要が伸びそうです。
自宅での勤務は落ち着かない人向けにスペースを間貸しするシェアオフィスもニーズがありそうです。積水ハウスのグループ会社や事務用品最大手のコクヨ、東京急行電鉄などはシェアオフィスのサービスを既に展開しています。
半面、テレワークが浸透すれば電車で通勤する機会が減少し、定期券を必要としない人が増えるかもしれません。長時間労働を強いる企業は敬遠され、有能な人材を確保しづらくなるでしょう。
日本人は働き過ぎなの?
経済協力開発機構(OECD)が公表している世界各国の労働時間(パートタイム含む)によると、調査対象37カ国の年間労働時間は平均1765時間。日本は1719時間で平均をやや下回り、37カ国中21位でした。しかし、正社員に限定すると労働時間は2000時間を上回っているほか、厚生労働省の調べでは過労死のリスクが高くなる月間の残業時間が80時間を超えたケースは、調査対象全体の2割程度ありました。業種別では情報通信、学術研究および専門・技術サービス、運輸・郵便の残業の多さが目立ちました。
政府の改革を受けて、こうした長時間労働はしだいに改善されることでしょう。そしてテレワークの広がりにより、私達の今までの生活スタイルはガラっと変わる可能性もあります。
テレワークは政策の追い風だけでなく、投資テーマとしては比較的新しい切り口のため、有望銘柄を発掘できるチャンスがあるのも魅力です。近い将来をイメージしながら銘柄を選別してみてください。政府から抜本的な政策が打ち出される前に、頭の体操を進めておくことが、投資の秘訣のひとつです。
国別の労働時間ランキングの上位
国別の労働時間ランキングの下位
※出所:経済協力開発機構(OECD)の主要統計「Hours worked」
(編集:QUICK Money World)