IPリポート VOL.2【リハビリ支援ロボット】 正林国際特許商標事務所

 本庶祐京都大学特別教授のノーベル生理学・医学賞受賞に沸く医薬品業界。電気機器・繊維製品・精密機器業界においてもQOL(Quality Of Life=生活の質)改善の観点から、失われた運動機能の代替・リハビリテーションを支援する「リハビリテーション支援ロボット」(リハビリ支援ロボット)の研究開発が急ピッチで進んでいる。手掛ける企業の株価への織り込みは、医薬品の領域に比べて不十分と言え、今後楽しみなテーマだ。 

 大手企業が新分野である脳波由来信号制御のリハビリ支援ロボット開発に注目し続々参入してきている。将来、患者にとっても、従来の筋電位による運動機能の代替・リハビリに加え、脳波由来信号制御という有望な技術が加わることで、よりポジティブな選択肢が加わる。

脳波で動かす新技術、QOL改善に選択肢~大手ハイテク企業が注目

AIPE認定 知的財産アナリスト=小暮佳史

知的財産スペシャリスト=原哲史

証券アナリスト=三浦毅司

企業評価への視点

  • 脳波由来信号制御のリハビリ支援ロボットの利点は、脳の重要な機能部位を損傷あるいは機能喪失してしまった患者でも、目的動作に対する意識から生じる脳波にもとづき駆動部位に補助動作を行わせることができる点。国内ではパナソニック(証券コード6752、以下同)が先行して研究を進め実用化が期待される
  • 帝人(3401)がイスラエル企業のモトリカと組み、脳波由来信号制御のリハビリ支援ロボットを販売。筋電位信号を主体とした信号制御による動作補助のトップ企業であるCYBERDYNE(7779)も軸足を脳波制御ロボットに移し、売り上げ再拡大をうかがう

第1章 リハビリ支援ロボットの進化

 動作支援型ロボット(パワーアシストスーツなど)は製造業・農業などの分野ですでに幅広く実用化されている。介護・医療分野においては、介助者の負担を軽減するもの、見守り・離床検知機能をもつもの、排泄支援型などの「自立支援ロボット」が製品化されている。自立支援ロボットの市場規模は新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO)の予測によれば2030年に2200億円に達する。

■自立支援ロボットの市場規模

(出所:NEDO)

 最近のパワーアシストスーツ市場の拡大は自立支援ロボット、中でも介護ロボットの成長がドライバーとなっているが、これには2015年に始まった国の「介護ロボ導入補助金制度」によるところが大きい。こうした国のサポートも自立支援ロボットの市場拡大を期待させる大きな要素のひとつだ。安易な導入による弊害も一部見られたが、使用事例が拡大したことで、今後の目指すべき方向性(低価格化・使いやすさ・効果の実感)が明確になった。 四肢に運動機能障害のある患者を補助・支援するリハビリ支援ロボットは近年多様な技術が応用され開発が進んでいる。

1 国が5か年計画で開発後押し

 2013年から経済産業省と厚生労働省で進められてきた「ロボット介護機器開発5カ年計画」が昨年終了した。介護現場のニーズを吸い上げ、介助動作を支援する装着型のパワーアシスト機器、移動支援歩行器、見守り支援などの分野でロボット介護機器の技術進化を加速させた。

■ 各社が得意な技術を持ち寄り製品化

 

(出所:経済産業省/AMEDロボット介護機器開発・導入促進事業製品化機器一覧を基に正林国際特許商標事務所が作成)

 2018年4月からは新たに「ロボット介護機器開発・標準化事業」がスタートした。介護効率化型ロボットの普及促進、高齢者の自立した生活維持のためのロボット介護機器の開発・安全基準の標準化などを目的としている。

2 脳波由来信号制御式の開発の背景

 筋肉が動作しようとする時に意思に伴い表皮に発生する電位(筋電位)を測定してロボットの制御信号とするリハビリ支援ロボットは、既に技術が確立され普及段階にある。CYBERDYNEは脳卒中や脊髄損傷の患者の動作訓練を支援する装着型リハビリ支援ロボット「HAL」を国内・国外に展開している。

 さらに重い障害により四肢に麻痺などを有する人のリハビリ向けに研究開発が進められているのが、手足を動かそうとする意思に伴う脳波の変化を測定して制御信号とするリハビリ支援ロボットだ。脳波由来の生体信号を用いる技術は、「Brain Computer Interface」あるいは「Brain Machine Interface」と呼ばれ、医療、スポーツ、教育、軍事など幅広い分野への応用研究が進められている。なかでもリハビリ分野での研究が先行している。意思に伴い複雑に変化する脳波を解析・抽出して、上肢・下肢のどの部位を動かすかを整理して信号化し、補助ロボットのアームなどに補助動作をさせる技術が開発されている。

 脳卒中などで上下肢の機能に関わる脳の部位が損傷すると、その部位が司る機能が失われるという認識がこれまでは一般的だった。だが近年の研究で、麻痺している側に対する補助動作を主としたリハビリを実施し、適切な刺激を繰り返し与えることにより、損傷部位周辺に新たな神経回路が形成され、失われた機能が徐々に回復してくることがわかってきている。

 脳波由来の信号を用いる技術が確立され利用できるようになり、さらに脳波由来の信号と筋電位由来の信号を組み合わせることが可能になると、より利用者に合った効果的なリハビリ技術として一層の普及が望める。

 わが国には、急性期を脱し在宅復帰を目指すために行われる回復期リハビリを行う病棟を備えた病院が1186カ所、脳血管疾患で継続的に治療を受けている患者数は国内で約120万人、新たに発症する患者数は毎年約30万人と推定されており、その半数以上が上下肢の麻痺など、何らかの後遺障害に悩まされている。脳卒中だけでなく、交通事故などによる脊髄損傷や外傷性脳損傷の後遺障害としても、上下肢に麻痺が残ることが少なからずある。

■ 国内の脳血栓疾患患者数

(出所:厚生労働省)

 

第2章 企業評価

1 パナソニック

 リハビリ支援ロボットに欠かせない生体信号計測に関わる特許出願動向は下のグラフの通りだ。総合電機、自動車、ロボット、研究機関など多岐な企業が名を連ね、中でもパナソニックの出願件数は突出している。

■ 生体信号計測に関わる特許出願件数

(SRPARTNERおよびパテントマップEXZにより正林国際特許商標事務所作成)

 次のグラフは各社の脳波計測に関わる出願の時期を示している。パナソニックの脳波計測に関わる出願開始の時期は早く、その後も継続して出願されている。同社は脳波由来の生体信号によるリハビリロボットについて他研究機関と共同で治験を行っている。

■ 脳波計測に関わる特許の出願時期

 

2 帝人

 帝人(帝人ファーマ)はイスラエルのモトリカ社が設計・製造する、脳波信号によるリハビリ用ロボットのプラットフォーム ReoGoを日本仕様にした上肢用ロボット型運動訓練装置 ReoGo-Jを2016年11月に販売開始した。ReoGoと下肢用のReoAmbulatorは、世界各国の病院・リハビリ施設で使用され実績がある。帝人は自社でも筋電仕様のリハビリ支援ロボットを販売するほか、繊維技術を活かしてセンサーと組み合わせるウエラブル型端末に関する特許出願を行っている。

 帝人は中期経営計画2017~2019の中で、整形インプラントデバイス、機能性食品素材、デジタルヘルスケアとならんで、リハビリ支援ロボットを含む新規医療機器をヘルスケア事業領域の発展戦略プロジェクトと位置づけ力を入れている。発展戦略プロジェクトの売上高は順調に伸張しており、2025には1500億円程度を目指すとしている。

■ 帝人のヘルスケア事業・発展戦略プロジェクト売上高

(出所:帝人)

3 CYBERDYNE

 CYBERDYNEは生体信号(現在は主に筋電位)により駆動するリハビリ支援ロボットの国内での先駆者である。ロボットスーツ「HAL」は医療用として日本では脳卒中の医師主導治験が進行中であるほか、米国ではFDA承認を取得するなど各国で展開されている。また民間保険会社との特約や包括連携協定などを締結して用途を広げている。

 上述した国の「ロボット介護機器開発・標準化事業」では衣服型HALの研究開発が補助対象として採択。同社は筋電位による駆動・制御系には豊富な技術的ノウハウを有し、脳波測定に関わる特許出願も行っている。新しい生体信号のインプットに関する技術展開が期待される。

■  CYBERDYNEの売上高と損益

(出所:CYBERDYNE)

4 その他

 国際電気通信基礎研究所はNTT(9432)、KDDI(9433)、ほか112社からの出資を受けた産官学連携型の株式会社組織の研究所。脳情報科学や知能ロボティクスなどの分野ではトップクラスの研究機関である。リハビリ支援ロボットについても民間との共同研究を進めており、脳波由来の信号による制御技術の進展に期待がかかる。

 日本光電(6849)は脳波計に関する特許出願を早い時期に済ませた。現在国内で共同研究を行っているのは、脳の表面に生体親和性素材でできた電極シートを埋め込み、より微細な脳波変化を長期間測定して制御信号として用いる技術である。

(2018年10月24日)

 

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正林国際特許商標事務所 (三浦毅司 takashi.miura@sho-pat.com 電話03-6895-4500)

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