米資産運用大手のブラックロック。「iシェアーズ」シリーズという上場投資信託(ETF)を手掛ける運用会社として日本の個人投資家にも知られているが、同時に名だたる日本企業の大株主でもある。長期保有の機関投資家として、上場企業との目的を持った建設的な対話(エンゲージメント)活動を精力的にこなしている。2017年度(17年4月~18年3月)に経営幹部との話し合いの場を持った日本企業229社の株式時価総額を合計すると、東証1部の約半分に達したという。
■ESG情報と財務情報、補完し合って効果発揮
同社の対話は「企業のESG(環境・社会・企業統治)への取り組み状況を確認するのが重要」(日本法人であるブラックロック・ジャパンの江良明嗣インベストメント・スチュワードシップ部長)というスタンスだ。気候変動が経済活動に及ぼす影響が大きくなると同時に、企業が短期経営主義(ショート・ターミズム)に陥らず持続的に成長するには、企業のESGへの積極的な対応が欠かせないという認識が世界的に高まっているためだ。
一方で「ESGという言葉は曖昧で色々な解釈ができる」(江良氏)ため、独自の視点で企業のESG要因を見極め、企業価値評価に活用している。例えば、企業の長期的な価値を評価するうえで競合他社との差別化要因やその持続性を調査するが、ESG要因となる非財務情報だけでは不十分で、従来の基本的な財務分析を補完する形で初めてESG情報が有効になると考えている。
■ESG評価と財務評価の溝は「対話」で見極め
江良氏は「企業のESG要因はESG評価機関が付与している格付けなどのデータを使って分析することが多いが、同じ企業に対する評価が複数の評価機関で違っていたり、評価時点が1年前など最新の企業活動を反映していなかったりする場合も少なくない」と指摘する。評価機関によるESG評価は、財務分析も踏まえた同社の評価とかい離が大きい場合もある。
企業との対話ではESG情報の特性を有効活用し、ESGと財務評価のギャップ(溝)を経営状況を見極めるヒントにしている。同社は指数に連動する成績を目指すパッシブ運用を得意とするが、「指数(市場平均)との連動性を低運用コストで維持するのが運用目標のため、運用戦略の一環として指数を構成する企業とのエンゲージメントが必要になると必ずしも言えない部分もある」(江良氏)。パッシブ運用では株式の売却に制約がかかることによって保有期間が長期化するため、長期投資家の観点から株式市場全体の底上げを図る重要性を認識し、対話しているようだ。
■個人にもESG重視の視点
米国ではミレニアル世代(1980年代から2000年頃までに生まれた主に35歳以下)の若い世代や女性のESGへの関心は他の世代や男性よりも高いという調査データがあり、江良氏は「日本でも企業経営者から『国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)』に熱心なことで人材をひきつけやすくなってきた」という話を耳にするという。
長期投資に対する考え方や投信への意見、パフォーマンスなどを積極的にネット発信している投信ブロガーと呼ばれる人々の間でも、全国各地で様々な事業活動を応援するクラウドファンディング(一般から小口資金を募集)型のマイクロ投資ファンドや、インターネット経由で個人が企業に融資するソーシャルレンディングといった社会貢献型の金融商品を購入する動きもみられる。個人の間でも「ESG」への意識が高まっているだけに、運用会社にはESG視点での商品開発や運用が一段と求められそうだ。
(QUICK資産運用研究所 高瀬浩)