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エコノミスト「中国ショックは各国の政策対応で吸収可能」JPモルガン証券・菅野雅明氏

記事公開日 2015/9/15 09:06 最終更新日 2018/1/4 11:27 経済・ビジネス コラム・インタビュー 金融コラム

話し手:JPモルガン証券 チーフエコノミスト 菅野雅明氏(※本記事は2015年9月8日にQUICKで配信された記事です)

【景況判断】現状(3カ月前比):緩やかな改善
先行き(3カ月後):緩やかな改善続くも下方リスク
GDP予測:15年度1.2% 16年度1.6%
【金 利】短期:横這い TIBOR3カ月 0.17%
長期:横這い 10年物新発国債 0.45%
【円 相 場】121円/1ドル
*GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%
*長短金利、円相場は3カ月後(2015年12月末)の予測値

1.景気見通し:「新興国の過剰債務が世界経済の重石に」

世界経済は新たな局面を迎えている。リーマンショック後、先進国ではバランスシート調整が進んだ一方、新興国ではバランスシートを拡大する傾向が持続したが、中国の減速をきっかけに新興国の成長が鈍化する局面では、新興国においてもバランスシート調整が必要な局面になってきた。しかし、新興国では、資本流出懸念もあって大幅な金融緩和には踏み切れない先が多い。長期金利はむしろ上昇傾向だ。この難局を打開するには、過剰債務問題を解決することが必要だが、かなりの痛みを伴うので、政治的に容易ではない。一方、欧米先進国では、潜在成長率を上回る成長が見込まれるが、新興国の減速を相殺し、世界景気をさらに加速させるほどの力はない。こうした状況は、日本経済にとって大きな向い風となっている。日本経済は雇用者報酬と企業収益が増加しており、今後も個人消費・設備投資中心に緩やかな成長が見込まれる。しかし、年初来の経済指標を見ると、個人所得・企業収益が増加している割には、個人消費、設備投資は緩やかな増加に止まっている。「所得から支出の好循環」は未だ十分にみられていないのが実情だ。家計、企業とも先行きに対する安心感は高まっていない可能性が高い。日本経済の先行きは、今後のアジア経済、とくに中国経済の先行きにかなり影響されそうだが、仮に中国経済が大きく減速しても、世界経済が景気後退に陥る可能性は低い。米国経済は、原油価格の低下もあって2%台の成長は可能だ。であれば、過度に悲観する必要はないが、中国経済の比重が過去にないほど高まっているので、製造業にとっては厳しい環境が続くであろう。ただし、対家計・対企業サービスを中心とする非製造業は、基本的に海外の影響を受け難いので、底固く推移する可能性が高い。

2.金融環境:「当面はリスクオフの展開に」

世界の金融市場は、米国の利上げ見通しと減速する中国経済の先行きが不透明なことから、全般にリスクオフとなっている。このため、従来積み上げられてきたポジションが巻き戻されるかたちで、株安、円高となっている。ただし、債券については、今後の米国の利上げ観測に伴う先行きの金利高とリスクフリー資産への資金流入がバランスして動きづらい状況だ。先行きについては、米国の金融政策と中国の経済動向と景気対策がはっきりするまでは、足元のリスクオフの傾向が続く可能性が高い。ただし、実体経済面では、足元の景気減速は一時的な調整局面に止まり、景気後退局面に突入するというリスクは小さいとみられる。その理由の第1は、上記のとおり、新興国の景気減速が世界経済の景気後退をもたらす可能性が低いと見られるので、企業収益面での下支えが期待できる点だ。第2は、リーマンショック前の景気拡大局面と異なり、先進国の金融市場および銀行貸し出しに過熱感が見られない点だ。新興国の金融システムの安定性には懸念が残るが、これが先進国に飛び火する可能性は低い。第3は、下記のとおり、各国での市場重視型の政策対応が期待できる点だ。以上を勘案すると、当面は先行きの政策対応を巡る思惑からボラティリティの高い市場展開となることが予想されるが、各国の政策対応が明らかになるにつれ、市場は落ち着きを取り戻すであろう。

3.注目点:「各国の政策対応が焦点」

中国では、先日、今次局面で5回目となる利下げを実施して景気のテコ入れを図ったが、足元の景気減速への対策としては不十分との見方が市場では多い。中国が大胆な金融緩和を実施しづらいのは、資本流出に対する懸念があるためだ。中国では、金融自由化の旗頭の下、対内外資本移動についても規制を緩和してきたが、それが裏目に出た形だ。中国は、従来は、資本移動を規制することにより国内の金融政策の自由度と事実上の固定為替相場を維持してきたが、足元では、資本流出が増える中でも為替レートの維持を図ってきたため、外貨準備が大きく減少した。今後、大胆な金融緩和を行うためには、資本流出規制を一時的にせよ復活させることが必要になる。ただし、金融の一段の緩和は金融市場を安定化させる効果はあるが、これで実体経済がどこまで回復するかは疑問だ。深刻化する過剰設備を抱えている限り、設備投資の増加は期待薄だ。また、過剰設備は将来の不良債権増大につながり、将来の金融システムが不安定化するリスクがあるので、過剰設備の廃棄は喫緊の課題だ。

米国の利上げ時期については、8月雇用統計の結果を踏まえると9月の可能性がやや高いように思えるが、10・12月にズレ込む可能性もある。いずれにせよ年内には利上げだろう。問題は、その後の利上げスピードだ。Fedは市場に対し「利上げスピードは緩やか」というメッセージを発する可能性が高いが、仮に今後も国内の労働市場が急速にタイト化し、賃金の上昇傾向が目立ってくれば、Fedの利上げペースは市場の想定を上回ることになろう。この場合には、米国への資本還流が加速され、新興国の金融市場はさらに不安定化するリスクがある。

この間、日銀は昨年10月の追加緩和以来、現状維持を続けているが、さらなる追加緩和に追い込まれる可能性が高い。先行きドル高が進めば、円安圧力が増大するので、為替面から日銀への圧力が強まることはないが、今後のFedの利上げ速度が市場の想定並みの一方、新興国の減速が強まる場合にはリスクオフが継続し、一時的には円高圧力が強まることもありうる。少なくとも、これ以上の円安が進まないだけでも、今後の物価にはマイナスだ。足元の国内景気を前提とすると、企業はこれまでの円安に基づくコストアップを転嫁するのが精一杯で、今後円安が止まれば、むしろインフレ率は低下する可能性すらある。2%インフレ達成時期はさらに遠のくことになる。その意味で、日銀の追加緩和は時間の問題のように窺われる。米国の利上げが緩やかに実施されるという前提の下で、日銀、ECB、それに中国人民銀行がさらなる金融緩和を行うことで世界の金融市場はひとまず落ち着きを取り戻すと予想する。

インフレ率推移

 

<菅野雅明氏略歴>

1949年生。74年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。シカゴ大学大学院経済学修士号取得。日本銀行調査統計局経済統計課長、同参事、日本経済研究センター主任研究員を経て、1999年JPモルガン証券調査部長、2001年同マネジング・ディレクター、2003年より現職。内閣府統計委員会国民経済部会統計委員会専門委員、主要著書・論文に「危機の日本経済」、「日本経済中期見通し1998-2003年度」、日本経済新聞「十字路」、TV東京「モーニング・サテライト」などのコメンテーター。


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