※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がレポートします。この記事は11月2日にQUICKの端末サービス上で配信されたものです。
ナノメートルで性能変わる…競争激化する半導体業界
米アップルの新機種iPhone6sとiPhone6sプラスについて、新プロセッサーのA9チップに半導体受託生産会社(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子の製品をそれぞれ採用したことから、ユーザーテストで両機種のバッテリー消費量に1時間の差が出た。このニュースは台湾から全世界へと伝わり、返品騒動を引き起こした。
アップルは後にiPhone6sとiPhone6sプラス両機種のバッテリー使用の差はわずか2~3%に過ぎないと説明した。しかし、市場ではTSMCの回路線幅16ナノ(ナノは10億分の1)メートル製造プロセスで生産されたA9チップがサムスンの14ナノメートル製造プロセスのA9チップを性能上で大きく上回るとの認識が一般的となっている。
こうした3次元構造の半導体設計の領域に突入したファウンドリー間の競争は、回路線幅が1Xナノ(10ナノメートル台)に突入に伴い熾烈(しれつ)化しつつあるようだ。
半導体の設備メーカーによると、TSMCは16ナノメートルでサムスンに出だしで遅れをとったものの後に同社を追い越す勢いとなり、TSMCのプロセス技術能力にアップルも注目している。次世代機種iPhone7に搭載するA10プロセッサーの生産をすべてTSMCに託す可能性もあるという。
これだけにとどまらず、これまで生産委託を分散させていた米クアルコムも2017年にTSMCの10ナノメートル製造プロセスを大々的に採用する予定だ。これによりTSMCは10ナノメートルの試験生産の進展を一段と速めて、サムソンを一層引き離す。
ゼロ成長も株価への影響は一時的か
しかし、TSMCは今月中旬に開催した機関投資家向け業績説明会で、今年の設備投資を当初予定の105億~110億米ドルから80億米ドルへと大幅に下方修正すると発表した。削減幅は2割を超すが、依然として米インテルの73億米ドルを上回る規模だ。
TSMCの説明によると、20ナノメートルの設備のうち95%を16ナノメートルに転換可能であり、これに伴う設備調達の削減が設備投資の下方修正の30%を占めるという。さらに、生産効率の向上で可能となる機械購入の削減が下方修正の33%を占める。その他の投資削減は設備購入を来年に繰り越すことによるという。
TSMCは同時に、今年の半導体の成長予測値を当初予測の3%からゼロ成長へと下方修正した。同社が今年の成長率予測を下方修正するのは3度目。また、半導体の在庫調整が年末まで続くとの見方を示した。
さらにTSMCにとってマイナスなニュースであるのが、ハイテク関連ウェブメディア「ベンチャービート」の報道だ。同社の報道によると、インテルがアップル社の次期iPhoneに搭載するモデムチップの受注とSoC(システム・オン・チップ)の生産受託を希望しており、クアルコムまたはTSMCへの発注分を奪うもくろみだという。
もっとも、これら2つのマイナス報道もTSMCの株価に影響を及ぼすまでには至っていない。同社の株価は業績説明会前から上げ基調が続き、業績説明会で設備投資の大幅削減が明らかになって下落する局面もあったが、その後は再び堅調に推移している。
18年めどに南京で量産体制確立へ
一方、TSMCの中国進出計画については、同社の設備サプライチェーンから得た情報によると、同社が初めて中国大陸で設立することになる12インチのウエハー工場の場所が南京に確定した。同工場では16ナノメートルのFinFET(フィン型電界効果トランジスタ)製造プロセスを当初から直接導入し、17年末に試験生産、18年から正式に受注と量産を開始する予定という。
台湾中部の中部科学工業園区(中科)にあるTSMCの中科15工場の立ち上げも急ピッチで進んでいる。第1期で16年第2四半期(4~6月期)に装置が設置され、10ナノメートル製造プロセスを当初予定から半年前倒しして16年末までに段階的に稼働させる計画だ。