※QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回はインドネシアの現地記者アディ・ビナルソ氏がレポートします。この記事は8月31日にQUICKの端末サービス上で配信されたものです。
通貨安進行も大多数の銀行は資金注入要さず
インドネシアの銀行には、中国の景気低迷と人民元切り下げの影響に伴うルピアの下落から生じたショックを乗り切ることができる強固な資本基盤がある。インドネシア国内の銀行は、同国の経常収支が赤字に陥っている中で同国経済に資金を提供するため、過去数年間にわたって対外債務に依存してきた。残念なことに、ルピア安はそうした債務に対する国内銀行の返済能力低下につながる。ルピアの対米ドルレートは、年初から13%下落している。
ただ、インドネシア金融監督庁(OJK)のネルソン・タムプボロン副理事は「我々はいつも金融機関に対して、あらゆる変化に非常に敏感な、そして用心深い姿勢を取るよう警告している」と述べた。OJKが5カ月前に実施した最新の銀行の健全性審査によると、ルピアの対米ドル相場が1米ドル=1万5000ルピアまで値を下げた場合に資金注入が必要になる銀行は、インドネシアの銀行120行のうち小規模な5行のみだった。足元でルピアは1米ドル=1万4000ルピア程度の水準で推移している。
一段安に警戒、国内銀行の自己資本比率は2割超える
OJKのデータによると、国内銀行の6月末時点の自己資本比率は20.3%に上り、起こり得るあらゆる損失に対応できる資本基盤の強さがうかがえる。インドネシア中央銀行は銀行各行に対して、自己資本比率を8%以上に維持するよう要請している。
OJKのデータでは、銀行の流動資産も非コア預金の約81%をカバーすることが可能な水準となっており、健全な流動性を示している。
インドネシア中銀のアグス・マルトワルドヨ総裁は「我々は国際情勢を注意深く見守る必要があるが、ルピア安にもかかわらず、インドネシアの銀行システムは健全かつ安全だ」との見解を示している。
一方、ルピアのさらなる下落を予測して警戒心を示している銀行もある。匿名を希望するある小規模銀行の幹部は「為替レートが1米ドル=1万6000ルピアの水準まで下落した時に当行の体力が試されると考えている。それは当行が考えるまさに最悪の筋書きだ。さらにルピアが下落した場合どうなるのかは、想像もできない」と話している。
ただ、アグス総裁は「中央銀行が中国の突然な人民元切り下げに端を発したいわゆる『通貨戦争』に参戦し、ルピアのさらなる下落を促すことはない」と述べている。
実質実効為替レートは過小評価…材料輸入に影響も
国際決済銀行(BIS)の実質実効為替レートのデータをみると、ルピアは依然として米ドル以外の主要通貨に対して過小評価されていることが分かる。このことは、国際貿易で同国の競争力になるはずだ。
一方、DBSグループ・ホールディングスのエコノミストで、シンガポール在住のガンディ・キャヒャディ氏は「インドネシア中銀がルピア安をいつまでも許容できるわけではない。まず、ルピア安による直接的なインフレ圧力がある。さらに重要なことに、インドネシアは輸出品の生産過程で輸入材料を多く使用していることを考えると、ルピア安はインドネシア経済にとって大きな障害になっていく」と指摘している。
【翻訳・編集:NNA】