今週、ソフトバンクG(9984)が9909円まで上値を切り上げ、年初来高値を更新した。理由は様々あるなかで、ある中小証券幹部は「6月20日に開催された株主総会で、孫正義社長の発言が胸に刺さった投資家がいるのではないか」とささやく。
総会で孫社長は自らが試算したソフトバンクG株の「フェアバリュー」をはじいて見せた。投資先の企業価値と抱える負債の差引から1万4199円だという。ただ、これに終わらないのが孫流なのだろう。現時点で既に上場申請をしている通信子会社のソフトバンクの価値=+αがあるとして「(ソフトバンクG株の)中には実は2万円前後のものが入っているのではないかというのが、私がいましつこく細かく説明した内容です」とした。
総会前の株価は8000円台前半で推移していた。孫社長の試算に比べれば割安。総会の壇上で「ソフトバンクグループの株が買いか売りかというと私は絶対買いだと思っています。だって中身の方が多いのだということです」と断言した。株価は総会前日にあたる6月19日終値から1カ月後の7月19日まで株価は2割上昇した。
社長が単に「割安なのでお買い求めください」といったところで個人投資家と言えどもそう簡単には動かない。ボラティリティの高い銘柄でもある。それでも投資家の心を揺さぶったのが以下の一枚の図かもしれない。
※ソフトバンクGのIRサイト「株主総会 書き起こし(https://bit.ly/2NsKWYZ)」より
時価総額と株主価値を描画しているが、この図は株主価値から見れば時価総額は2000年代前半のITバブル時に迫る、もしくは抜くとのメッセージにも読み取れる。前出の中小証券幹部は「ここまで経営者が株価に対し前のめりになると、投資家も無視はできなくなる」と話す。
市場が想定するフェアバリューはどの水準なのか。QUICK FactSet Workstationがまとめているアナリストの目標株価の平均は7月18日時点で1万2425円。気がかりなのは2カ月前から700円ほど切り下がっている点だ。孫社長が試算したフェアバリューは市場の目線から大きく離れている印象はないが、市場の株価予想のモメンタムそのものは上向いていない。
ITバブル期を超えるとのメッセージに対し市場はまだまだ半信半疑なのだろう。株主総会で孫社長は「(自分が)何を発明したのか」として強調したのが「群戦略」だった。テクノロジーではない。カリスマ社長の強弁と言えども曖昧さに賭けるほど市場もお人よしではない。
ソフトバンクG株はコングロマリット・ディスカウントなどが指摘され本来価値に対して割安との見方が一般的だ。その修正分だけでも上値余地があると考えられるが、まずはアナリスト予想の平均まで切り上げられるのか。偉大なるプレゼンテーターである孫社長のセールストークを市場が瀬踏みを始めるのはそこからだ。(岩切清司)
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