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相場の天井を伝える「マーケットの鐘」の正体

記事公開日 2016/3/3 10:27 最終更新日 2018/1/5 12:53 経済・ビジネス コラム・インタビュー 金融コラム

「マーケットの鐘」?

ニューヨークにある金融街ウォール・ストリートには、このようなことわざがあります。

”Nobody rings a bell at the top or the bottom of a market” *¹

(相場の天井と底で鐘は鳴らない)

これはニューヨーク証券取引所において、寄り付きと大引けに鐘が鳴ることと掛けていると考えられます。マーケットの鐘は取引開始時間と終了時間を教えてくれます。しかし相場のトレンドがいつ始まり、いつ終わるかについてはだれも教えてくれないという相場格言の一つです。このような言葉は、日本でも「天井知らず、底知らず」という相場格言として同様に伝わっています。

完璧に天底をあてる鐘は存在しないにしても、バロメーターのような役割で売買シグナルとなりえるような「鐘」があれば十二分にありがたいと思います。もしそのような鐘が存在するのであれば、私たちにとって大変心強い味方になるでしょう。今回は天井を教えてくれるという側面に焦点を当て、実際のケースと照らし合わせながらその正体を解明していきたいと思います。

ケース1 1929年 アメリカ ウォール街大暴落直前

第一次世界大戦ではウィルソン大統領の側近となり、官僚としても手腕を振るったバーナード・バルークは、大暴落の直前に保有株を売却することができました。これについて彼は以下の言葉を残しています。

“When beggars and shoeshine boys, barbers and beauticians can tell you how to get rich it is time to remind yourself that there is no more dangerous illusion than the belief that one can get something for nothing.

町のあらゆる人が嬉々として金持ちになる方法を教えてくれる時は、気を付けるべきであるという内容です。この時我々は、ものがタダで手に入ると思うことと同じくらい危ない幻想に惑わされていると思い出すべき旨、彼は振り返って言います。現に暴落前は、タクシードライバーがお勧め銘柄を教えてくれたり、靴磨きの少年がマーケットサマリーを教えてくれたり、料理人が証券口座を開き、株価ボードに釘づけになっていたりと、異様な光景であったとバーナードさんは述べています。そのような光景もつかの間、大暴落によって幻想から覚めた人々は、もはや株について語ろうとすらしなくなりました。

ちなみに、この教訓は「靴磨きの少年」という表現で現在の日本でも言い伝えられることがあります。エピソードの中で彼が挙げた職業の一つである「shoeshine boys」がその由来であるという説が有力です。(ジョン・F・ケネディの叔父であるジョセフ・P・ケネディも同様のエピソードを語っていますが、これは作り話という説もあります。)

そもそも株で利益を得るには、誰かに高値で売らなければなりません。しかし、自分の買値より高く買ってもらうには、自分よりも購入が遅れた者を探さなければなりません。もし最も購入が遅れた場合、売る人が見つかりません。当然買う人が出てくるまで値段は下がります。    

そして、情報の伝達過程は、原則としてプロ ⇒ アマ ⇒ 大衆 です。その情報の終着点が、当時のアメリカにおいて、もっとも生活水準が低いと見なされていた靴磨きの少年なのです。彼らがおすすめ銘柄を口にする頃には、ほぼすべての人間に情報がいきわたっており、もはや遅れて買う人は残っていなかったというシグナルとなったのですね。

ケース2 1989年 日本 バブル崩壊直前

1989年末の市場では「来年の日経平均4万円越え」が既定路線のような雰囲気が漂っており、全員が強気だったようです。東京を売ればアメリカが買えるという話や、給料以上を株で稼いでいるが、部下の方が儲けていたといった話をはじめ、バブルならではのエピソードが数えきれないくらいあったといいます。

また、時の日本興業銀行副頭取ですらも日本経済の先行きについて、「雲も見えないし揺れもないし順調にいく」とジェット機に例えて相場の明るい先行きを語ったという話もあります。

日経平均 長期

 

しかし、この発言からわずか数か月ほどで、この強気相場は終焉を迎えるのです。バブルというものは大銀行の幹部ですらも惑わせる恐ろしい災害ともいうべき出来事ですね。(イギリスのバブルも知識人を惑わせました。万有引力の法則で有名なニュートンは、18世紀前半にイギリスで発生した南海会社バブルに初めこそは参加しませんでしたが、友人が大儲けしているのを見て株を天井付近で買い大損してしまったのです)

後から見てみればおかしなことではあるのですが当時の環境でその異常性に気づくことができたでしょうか。これは細心の注意を払わなければ難しかったことであると思います。バブル相場の異常性に気付き、警鐘を鳴らしていた者もいましたがその声は大多数の国民に届くことはなく大衆の狂乱にかき消されてしまいました。

ケース3 2007年2月24日 アメリカ 

この日、ニューヨークではトレーダーズエキスポなるイベントが行われていました。この展示会が開催されるまでの7か月間は非常に強い上昇トレンドを描いて上げ続けていたこともあり、野球帽やTシャツといった豪華な入場特典が用意されていました。その中でも、NASDAQのブースは「現金」を無料で配布していたのです。

これは、NASDAQMAX(NASDAQ MARKET ANALITIX)というツールの宣伝のために配られたもので、プラスチックケースに1ドル紙幣が入っていたといいます。「投資苑」という書籍の著者でもあるアレキサンダー・エルダー博士は、この時の異常性を瞬時に察知し、売り方に転向したといいます。

ダウ平均

結局、この強い相場は、結局展示会からわずか1営業日しか持たず、2営業日目には2001年来最大の下落を被ることとなりました。当時のニュースの記事には「Brutal day on Wall Street」*⁴(ウォール街にとって耐えがたい一日)という見出しで、頭を抱えるフロアトレーダーがクローズアップされていました。

例えば、「現金 無料配布」という電子メールが届いたとき、私たちはどう行動するでしょうか。まずそのアドレスを迷惑メールとして報告し、その次にそのメールを削除するのではないでしょうか。つまり、お金がタダで手に入ることはないと普段の私たちなら気づいているのです。しかし、この日は違いました。あまりにも金融市場が順調すぎて人々は惑わされていると気づかなかったのです。

このような投資家向けイベントでは、上記の例とは反対に、不況時はほとんど入場特典やプレゼントを配布していないという話もあります。そうすると、このようなイベントにおけるプレゼントの質と相場の位置には強い相関性がみられるという仮説も成り立ちますね。プレゼント等に限らず、相場の調子によって投資家向けのイベントの開催件数や参加者数が大きく変動することもあるようです。

失業率と日経平均で見る鐘の音理論

株と無縁だったはずの町の人が株を熱く語りだすと天井になる傾向は経済指標からも説明が可能です。

日経平均と失業率

 

まずは上の図のように、日経平均株価指数と、代表的な遅行指数である完全失業率を比較してみましょう。

特に07-08年に注目してみましょう。先行指数である日経平均株価指数は、07年中盤に天井を付けて、09年の3月に大底となっています。一方で、08年の完全失業率はそれほど上昇しておらず、09年に高くなっています。

このように、よく見ると日経平均の反発、反落に比べ失業率はゆっくりとしたペースで推移しています。業績の期待感によって変動する株価と、業績の確認として反映される失業率ではずれが生じる傾向にあるということですね。ちなみに前者のような指数を先行指数、後者のような指数を遅行指数といいます。

上昇相場の中盤以降に、それまで株に全く興味がなかった人が突然証券口座を開いたという種の話を頻繁に聞くようになるのは「労働環境その他周囲の景気が良くなったと思ったから株を買おう」という考え方でいるからだと考えられます。しかし、これは遅行指数を先行指数に当てはめるようなもので金融市場のピークはとうに過ぎ去っている場合があるということです。

現代は情報の伝達スピードが非常に早く、末端まで瞬時に到達してしまいます。そのため噂の段階で先行指数がイベントの発生を織り込むほどに情報は伝播しています。その結果、ニュースで真実だったと報道される頃にはみんなが買っており、そこが天井となることすらあります。昨年末の米国の利上げ発表後、ドル安が進行したのもこれが原因といわれています。2014年の時点でアメリカが利上げするのではないかという観測はすでに出ており、市場ではすでに織り込みを進めていました。そして、昨年12月にあらゆる人へアメリカの利上げという情報がいきわたった結果、「もはやドルを遅れて買う人はいない」状態になりドル安が起こったという説明も可能になるのです。

ドル円と利上げ

人々の行動が「鐘」だった?

 結局は、人々の行動がマーケットの「鐘」となり、相場の天井を警告してくれたのですね。この看過しがちな鐘の音を聴き取るヒントは情報の流れと、行動の異常性にありそうです。

 数々の急落劇の直前を思い出してみてください。その時は皆さんの身の回りでも、株で儲けるといった類の本が書店で特設コーナーに並べられていたり、テレビで株の話題が頻繁に取り上げられたり、電車でお勧め銘柄の話が聞こえるなどちょっぴり異様な光景が繰り広げられていませんでしたか?専門家の行動であれ、アマチュアの行動であれ、大衆の行動であれ、このような「ちょっとおかしいんじゃないか」と思えるような光景がサインなのかもしれません。見抜くのは難しいかもしれませんが、マーケットの鐘の存在を心の片隅に置き、日々の相場に一層の注意を払うことも必要になるのではないかと思います。

参考文献

  • *¹Stephen Eckett.2008.Harriman’s Money Miscellany: A collection of financial facts and corporate curiosities:HARRIMAN HOUSE
  • *²Kenneth L. Fisher.2007.100 Minds That Made the Market:John Wiley & Sons, Inc
  • *³Alexander Elder.2011.The New Sell and Sell Short: How To Take Profits, Cut Losses, and Benefit From Price Declines(邦題:利食いと損切のテクニック):Wiley
  • *⁴Alexandra Twin.2011.Brutal day on Wall Street Dow tumbles 416, biggest one-day point loss since 2001, as investors eye China, drop in durable orders:CNN Money

 


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