荒れる米株式相場の一筋の光明になるのだろうか。画像処理半導体(GPU)大手の米エヌビディアが8日に発表した2017年11月~18年1月期決算と2~4月期の業績見通しは市場予想を大幅に上回る「満額回答」だった。企業によるAI(人工知能)採用が加速しGPU需要が拡大。「本業」のゲーム向けも好調を維持した。
次世代GPUの採用進む
「ありがたいことに名だたる大企業が『ボルタ』を採用している」。ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は決算説明会で中国のアリババ集団や百度(バイドゥ)、米フェイスブックやマイクロソフト、グーグルの名を挙げた。クラウドを介したAIサービスで次世代GPUボルタを採用する企業が相次ぎ、データセンター事業の成長率が一段と高まった。
AI採用はクラウドを提供する企業にとどまらない。エヌビディアは17年11月~18年1月期にゼネラル・エレクトリック(GE)のヘルスケア部門とAI導入を加速させると発表。コマツとも建設現場でのAI導入で協業すると発表した。自然言語や画像認識だけでなく、医療機器の画像処理速度の向上や建設現場の可視化といった分野にもAIの利用が広がっている。
「本業」のゲーム部門も好調を維持
今やAIや自動運転で名をはせるが、「本業」であるゲーム事業も市場予想を上回る成長が続いている。年末商戦期に人気ゲームの「バトルグラウンド」や「コール・オブ・デューティー」、「スター・ウォーズ」などの最新作が相次いで導入され、高性能GPUへの需要が拡大した。ゲーム対戦競技「eスポーツ」の広がりも後押しした。
販売目標の上方修正が続く任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」向けを含むプロセッサー「テグラ」の成長もゲーム事業の成長を速めている。前年同期比の伸びは75%と前期の74%からやや加速した。「ゲームの需要は世界に広がっている」。ファンCEOの自信を裏付けるように、ゲーム事業の売上高は市場予想を1割強上回る好調ぶりだった。
売上高、利益ともに過去最高に
7四半期連続で前年同期の倍以上の成長を実現したデータセンター事業と、主力のゲーム事業がけん引役となり17年11月~18年1月期決算では売上高、純利益ともに市場予想を大幅に上回る増収増益。ともに過去最高を更新した。税制改革に伴う一時的な利益が0.21ドル押し上げた影響を除いても、1株利益は市場予想を大きく上回った。
決算説明会では最高値から急落したビットコインなど仮想通貨に関する質問が相次いだ。仮想通貨はネット上の「電子台帳」に取引記録を書き込んでおり、台帳の新しいページをつくるには計算を繰り返す必要がある。並列処理の優れたGPUがマイナーと呼ぶ通貨採掘の専門業者向けに伸びたのが足元の業績を押し上げた部分はあるが、会社側は「先行きの需要を計測するのは困難だ」として仮想通貨向け需要に依存しない姿勢を改めて示した。
好調な業績、荒れる相場に一石投じるか
先行きの収益への自信も鮮明になった。18年2~4月期の売上高見通しは下限でも前年同期比47%の大幅な増加を見込む。17年11月~18年1月期に61.9%と過去最高になった売上高総利益率も一段と改善すると予想する。ゲーム用の高性能GPUやクラウド向けGPUといった採算の良い製品群の売上高比率が高まり収益力が増す見通しだ。
世界の主力企業と協業を進める自動運転向け半導体の収益貢献が本格化するのは「20~22年の間」(ファンCEO)と市場の期待ほど収益化は早くはなさそうだ。だが、市場予想を下回る自動車事業の売上高に失望するような反応は目立たなかった。自動運転の収益化まではゲームとAIの二本柱で稼ぐ――。エヌビディアの好調な業績は相場急落で冷え込む投資家心理をどれだけ支えられるだろうか。
【NQNニューヨーク=滝口朋史】
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