株式市場で投資家心理が悪化すると上昇しやすい「恐怖指数」の高止まりが、さらなる世界の株売りを促しかねないとの警戒感が広がっている。米国株の予想変動率を示し、恐怖指数と呼ばれる米VIXは高水準のまま。この指数の変動を投資判断の材料にする投資家からの潜在的な売り圧力の規模は、22兆円に達するとの試算も出ている。
7日までに日米の株価急落にはひとまず歯止めがかかった。だが「株売りが本格化するのはこれから」と、機関投資家の運用戦略に詳しいある大手証券の株式担当者は身構える。7日のVIXは前日比7.34ポイント低下の29.98だったが、一時は50まで上昇した。米ダウ工業株30種平均の7日の日中値幅(高値と安値の差)は1100ドルを超え、相場の乱高下は続いている。VIXはS&P500種株価指数のオプション価格を元に算出するが、グローバルの投資家が市場心理を推し量る指標として重視している。VIXの上昇は日欧などのグローバル株の調整につながる。
相場の変動率を投資判断に活用する代表的な投資家はヘッジファンドの1つであるCTA(商品投資顧問)で、そのほか保有資産全体のリスクを予想変動率で測って資産を運用する「リスクパリティ(均衡)戦略」をとる投資家もいる。VIXの上昇は予想変動率が拡大を意味するため、彼らは株式投資のリスクが高まったと判断し、売りを出す。米バンクオブアメリカ・メリルリンチ(バンカメ)は6日付リポートで「CTAとリスクパリティ戦略(の投資家)は2000億ドル(22兆円)の世界株を売却している過程にある」と試算した。
こうした潜在的な売り圧力は10兆円とみるのは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の古川真チーフ・ポートフォリオストラテジストだ。同氏は「彼らは資産の組み入れ比率の調整を2週間から1カ月ごとに実施することが多い」と指摘する。バンカメも「大幅な配分変更には数日かかる」とみる。いずれも、変動率が大きくなった後、一定の時間をおいて株売りが膨らむとの見立てだ。
国際通貨基金(IMF)が変動率を重視して運用するこうした投資家の17年6月時点の運用残高をまとめたところ、CTAは24兆円、リスクパリティ戦略の投資家は最大19兆円、さらに変額年金は48兆円という。運用資産は株式だけではないものの合わせると100兆円に迫る規模という。17年末まで相場変動率は低位で安定していたため「残高はさらに増えた」との見方もある。それが年明け以降、VIXが急上昇したため、一転して売り圧力として警戒されている。
VIXの急上昇は現物株市場の外にも波紋を広げている。野村ホールディングス(8604)の欧州グループ会社と金融大手クレディ・スイスは6日、運用するVIXと逆の値動きをするETN(上場投資証券)をそれぞれ早期償還すると発表した。これらの商品はVIXが1%上がれば、1%下がるという仕組みだ。VIXが5日にわずか1日で2倍以上に急騰したため、一夜にして価値がほぼゼロになった。
米国株の急落とVIXの急上昇が残した爪痕として、今後1~2週の間にどこから関連した金融商品を通じた株売りが出てくるか。投資家は戦々恐々としている。彼らのリスク許容度の回復は簡単には進まなさそうだ。
【日経QUICKニュース(NQN ) 田中俊行、張間正義】
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