2017年の円相場は膠着感を強めたまま終わろうとしている。年間値幅は11円28銭(107円32銭~118円60銭)と、昨年16年の22円70銭(99円ちょうど~121円70銭)の半分以下しかない。16年に日銀のマイナス金利政策導入や英国の欧州連合(EU)離脱決定、「トランプ相場」などのサプライズ(驚き)が相次いだのに対し、17年は静かだった。小刻みに売り買いを繰り返すHFT(高頻度取引)の席巻もあって相場は振れにくくなっている。
将来の為替レートを予測する通貨オプション市場で、円の対ドル相場の予想変動率は29日8時時点で6.0~6.7%程度と、今年の最低水準で推移している。10月以降の直物相場は1ドル=111~114円台のレンジを結局抜け出せず、18年にかけてどちらかに大幅に振れるとの展望もまだ描けない。米追加利上げの可能性が意識される2カ月物、3カ月物は高めだが、それでも7%台にとどまる。
需給面では日本の貿易黒字を背景にした円高圧力がコンスタントにかかってくるものの、国内輸出企業が円の手当てを急いで円高・ドル安が加速する可能性は今のところ低い。日銀が18日に発表した12月調査の企業短期経済観測調査(短観)全容によると、事業計画の前提となる2017年度通期の想定為替レートは大企業製造業で1ドル=110円18銭だった。輸出企業が多い自動車と加工業種はそれぞれ110円20銭、110円08銭といずれも足元の112~113円台よりも高い。落ち着いて円買いの先物予約や円のコール(買う権利)オプションを通じた為替リスク回避(ヘッジ)を進められる状況といえる。
そんな中で欧米ヘッジファンドなどの投機筋のHFTが幅をきかせている。HFTに用いるコンピューターは今年、インターネット上の仮想通貨ビットコインなどのマイニング(採掘)競争によって格段に速くなった。マイクロ秒(1マイクロ=100万分の1)を超えるスピードで次々と注文を出し、円高、円安双方向に厚い壁を作る。
極めて狭い値幅で勝負するHFTは、相場が動かなければ動かないほど都合がよい。狭いレンジに収まる円相場がHFTのさらなる流入を招き、変動率を押し下げるサイクルも生まれている。
18年はどう見通すべきだろうか。市場参加者の多くは米金融政策をメインテーマとして挙げるが、物価上昇率の鈍さから「米連邦準備理事会(FRB)の利上げは、してもゆっくり」との観測が強い。そうなると日米金利差の拡大余地も限定的で、リスクに敏感な国内投資家などが円売りを膨らませるためのハードルはかなり上がる。
円の低変動率を嫌気する国内の個人投資家の一角は既に取引を離れ、ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨に移っているようだ。今も外為証拠金(FX)取引を続けている個人投資家は、比較的狭いレンジの中で相場の流れに逆らう「逆張り」の手法が多い。円相場の膠着は長期化するかもしれない。
【日経QUICKニュース(NQN ) 今 晶】
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