QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回はシンガポールの現地記者クリストファー タン シ(Christopher Tan, Si)氏がレポートします。※本記事は2016年1月27日にQUICK端末で配信した記事です。
新興国からの資金流出7350億米ドル…過去最高水準
中国経済の成長鈍化と原油価格の下落が重なったことをきっかけに、世界の株式市場は大幅な調整局面を余儀なくされている。中国・上海総合指数(コード@@SSE/HD)は年初以降で2割近く下落。先進国株のみならず東南アジア地域の株式市場も例外なく売りに押された。例えばマレーシア証券取引所の主要指標であるのFTSEブルサ・マレーシアKL総合指数(FBM・KLCI、コード@@COMP/KL)は5%強下落するなど、多くの投資家が同地域から投資資金を引き揚げる動きをみせている。
国際金融協会(IIF)によると、2015年に新興国市場からの資金流出額は7350億米ドルに達し、過去最高の水準を記録した。IIFは2016年については多少は状況が改善するとみているが、資金流出額は4000億米ドルを超える可能性があると予想している。
「現在の状況は2007年よりも悪い」OECD経済開発検討委員会
こうした動きのきっかけとなったのは、昨年半ばに中国政府が突然、通貨人民元の基準値の算出方法を従来の米ドルペッグ制に近い方法から変更し、その他の主要通貨のレートをより反映させると決定したことだった。中国政府の決定を受けて人民元は下落し、各国の金融市場に動揺が広がった。
原油価格が13年ぶりの低水準まで下がっていることもあり、アナリストらは人民元の下落基調が続いた場合、事態はさらに悪化する可能性があると警告している。
シティグループはとりわけ悲観的で、世界的な景気後退を懸念し始めている。同グループのアナリストらは「世界経済の見通しについて、その脆弱性が臨界点に達していると考えている。世界経済の成長への期待が薄れ、大規模な経済刺激策を導入することで取れていたここ数年のきわどいバランスが崩れつつある」と指摘。「当社はディスインフレ圧力は弱まらないと考え、2016年の世界経済成長予測を2.8%から2.7%に再び引き下げる。世界的な景気後退の危険性が高まっていることから、当社の成長予測がさらに下方修正される可能性も依然として残る」と述べている。
経済協力開発機構(OECD)の経済開発検討委員会のウィリアム・ホワイト議長は「世界は今、危険にさらされている」との見解を示した上で「現在の状況は2007年よりも悪い。我々は景気低迷に対するマクロ経済的な防御手段を基本的に使い果たしてしまった」と指摘。一方、負債は極めて高水準に達していると言及、「負債の大部分について、利子が未払いになるか、返済そのものが滞ることになるだろう」と付け加えている。
ラボバンクは債務免除を打診
ラボバンクのアナリストらに至ってはさらに悲観的で、多くの企業は現実的に債務を返済する術がないと指摘。債務の全額免除、言い換えれば「デット・ジュビリー(債務帳消し)」が唯一の解決策だと主張している。ラボバンクは「唯一の問題は、我々が現実を直視し、今後の事態に整然と立ち向かうことができるのか、それとも無秩序な状況に陥るのかということだ。デット・ジュビリーは5000年前のシュメール人の時代から存在する制度だ」と述べている。
結局のところ、市場の変動性の大きさを嫌がり、落ちてくるナイフはつかみたくない投資家にとって、先行きに対する警戒心は今後さらに高まることになりそうだ。
【翻訳・編集:NNA】