感謝祭明け24日の「ブラックフライデー(黒字の金曜日)」を号砲に、米国の年末商戦が本格化する。米個人消費が1年でもっとも盛り上がる時期だ。日本の関連銘柄として任天堂(7974)などと並んで注目されるのが今期20年ぶりに営業最高益を更新するソニー(6758)。同商戦の主要商材であるテレビの売れ行きは、2015年3月期に黒字を回復した同事業、ひいてはソニー全体の今後の収益底上げの試金石になる。
22日の東京株式市場でソニー株は一時前日比2.6%高の5351円を付けた。「米投資会社や国内のベンチャー企業と連携し、人工知能(AI)開発に取り組む」と伝わったのに加え、米年末商戦でのテレビやゲームの販売増への期待が背景にある。
全米小売業協会(NRF)によると今年の米年末商戦の販売高は最大で前年比4%増になる見通し。NRFのアンケート調査によると米国人の69%がこの期間に買い物する計画という。実店舗や電子商取引(EC)サイトが用意する大幅値下げの「目玉商品」を狙って消費者が殺到する。小売業界にとっては在庫一掃セールという側面もある。
小売り各社はすでにECサイトなどで販売価格を公表している。例えば米家電大手のベストバイのサイトでは、ソニーの60インチ型の4Kテレビは1台599ドル(約6万7000円)と、通常より400ドル引き。シャープ(6753)や韓国サムスン電子の液晶テレビも値引きされている。
10月31日に開いた決算説明会で同社は、18年3月期の世界のテレビ販売台数見通しを50万台引き上げ、前期実績比3%増の1250万台とした。ソニーのテレビ売上高の約4分の1は米国。決して小さい数字ではない。
同社は有機ELテレビなど付加価値の高い次世代型の販売に力を入れている。米商戦では有機ELも売るが、特売の中心は4Kなど既存製品。値下げ販売は採算悪化につながるものの、ソニーは売り場の確保を優先するもようだ。「米ベストバイなど量販店の専門コーナーで(年末商戦後も高付加価値製品の)売り場を確保してもらうためにも、商戦での販売実績は重要だ」(ソニーの広報担当者)。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の担当アナリスト、宮本武郎氏は「米年末商戦で有機ELテレビが売り切れるなど販売が好調なら、ソニーは他の地域でもマーケティングを強化する」とみる。「来期以降の収益性を伴ったテレビ事業の回復を期待できる」。
ソニーは18年3月期通期の業績見通しで、テレビを含む「ホームエンタテインメント&サウンド」部門の連結売上高を前期比15%増の1兆2000億円、営業利益を同30%増の760億円に上方修正した。岩井コスモ証券の西川裕康アナリストも米商戦の結果について「ホームエンタテインメント&サウンド分野の底上げにつながるか注目している」と話す。
ホームエンタテインメント&サウンド分野は14年3月期まで営業赤字が続き、過去数年、ソニーの構造改革の核心だった。米年末商戦を踏み台に黒字基調を一段と強固なものにし、ゲームや半導体と並ぶ収益の屋台骨を増やせるかどうかの大事なタイミングだ。
そのゲーム事業にとっても、今回の商戦は重要だ。今年は任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」が米商戦に初お目見えし、ソニーの「プレイステーション(PS)4」が迎え撃つ形になる。スイッチは世界的に品薄が続いており、前哨戦といえる10月の販売も好調。「年末に買えないと思った人が早めに買ったのでは」(エース経済研究所の安田秀樹アナリスト)との見方があり、年末商戦での両者激突は話題になりそうだ。
ソニーはゲーム事業で、機器販売後の課金サービスで稼ぐ体制を目指している。「他社との競合で販売台数が減っても、ソフトのダウンロードやユーザーからの課金収入が伸びるかどうかが収益拡大のカギ」(三菱UFJモルガン・スタンレーの宮本氏)だ。
スイッチの攻勢に、ソニーグループは値下げで対抗する。ゲーム事業を担うソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の米子会社は期間限定でPS4の一部タイプを通常価格から100ドル値下げしている。「キャンペーン効果は高い。PS4関連の販売の大幅増が期待できる」(国内証券アナリスト)
会社側は今期のPS4の世界販売台数について1900万台と前期実績(2000万台)を下回ると見込んでいるが、予想外に前期実績に近い水準まで押し上げられれば、市場の評価は高まりそうだ。米年末商戦の取り組みが、最高益からの一段の成長を左右することになりそうだ。
【日経QUICKニュース(NQN) 大石祥代、岩本貴子】
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