外国為替市場でトルコの通貨リラの下落基調が続いている。対円は20日に1リラ=28円台半ばと過去最安値を付けた。トルコと米国との関係悪化を懸念する欧米投機筋が対ドルでリラ売りを進め、円買い・リラ売りに波及した。リラが下げ止まる兆しは今のところみられない。一方、国内の外為証拠金(FX)投資家「ミセスワタナベ」はリラを数少ない高金利商品とみなし、多少の為替差損は覚悟のうえとばかりに買いの手を緩めずにいる。
FX大手外為どっとコムによると、顧客のリラの買い持ち高は11月に入って過去最高の水準にある。買越額は同じ高金利通貨の南アフリカ・ランドの1.5倍を超え、取り扱われてまだ歴史が浅いメキシコペソの3倍以上に達する。トルコの政策金利の1つである1週間物レポ・レートは21日時点で8.00%とメキシコの7.00%や南アフリカの6.75%よりも高いからだ。
トルコではエルドアン大統領が中央銀行に金融緩和を迫り、高金利をどこまで保てるか不透明な情勢にある。一方、メキシコは利上げ局面がいったん終わった。南アには利下げ観測がくすぶる。ミセスワタナベは金利の点でリラが有利な状況は当分変わらないと考えているようだ。
1リラ=28円台のリラは1ランド=8円前後のランドには及ばないものの、1通貨当たりの円換算額が小さい。同じ1万通貨を取引する場合でも主要国通貨に比べると差し入れる証拠金は少なくて済む。しかも利息収入に相当する「スワップポイント」は先進国で金利水準が高い部類のオセアニアの通貨を買うよりもはるかに多い。「リラ運用で日々得られる金利収益はオーストラリアドルの3倍程度になる」(外為どっとコム総合研究所の川畑琢也・シニアテクニカルアナリスト)。為替変動リスクを考慮しなければ資金効率はかなり良いといえる。
ある個人投資家は「15年のチャイナ・ショック以降に加速した新興国通貨安を乗り切れたトレーダーは資金の振り向け方をよく知っている」と話す。例えば、運用額を証拠金の最大25倍まで膨らませる「レバレッジ」はしない。小刻みに買ってリラ買いの平均コストを下げ、為替含み損への抵抗力を付ける。運用対象は分散し、リラだけに資金を集めることはしない。
「ミセスワタナベの一部は、インターネット上の仮想通貨ビットコインなどの投資家と重なっている」(国内証券の為替ディーラー)。市場にはそんな指摘も聞かれる。ビットコインのドル建て価格は21日に1ビットコイン=8200ドル台に乗せ、再び過去最高値を更新した。年初の1100ドル前後と比べた上昇率は800%近い。もし仮想通貨ブームに乗れた人なら、リラが数十%下げたところでびくともしないだろう。
トルコへの熱い視線はミセスワタナベだけではない。長期スタンスで運用する他の国内個人もリラ建ての投資に傾いている。投資信託協会によれば、トルコリラ建ての国内公募投信の純資産総額は10月末時点で752億円。13年5月のピーク(2261億円)からは7割近く減少したが、今年1月のボトム(521億円)からはリラの大幅な下落にもかかわらず増加傾向が目立つ。10%を超える高い長期金利と景気回復が個人マネーを引き付けている。日本勢が、崩れかけたリラの防波堤の役回りを果たす構図は当分変わらないかもしれない。
【日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今 晶】
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