日銀の黒田東彦総裁は13日、スイス・チューリッヒ大学で講演した。タイトルは「『量的・質的金融緩和』と経済理論」。日銀が公表した講演の邦訳によると、低金利環境がもたらす金融機関の影響について長めに話している。なかでも低金利で「かえって金融緩和の効果が反転(reverse)する可能性がある」という「リバーサル・レートの議論」への言及に市場は注目した。三菱UFJモルガン・スタンレー証券シニア・マーケットエコノミストの六車治美氏が読み解いた講演のポイントは以下の通り。
▼総裁としては珍しく、低金利環境がもたらす金融機関への影響について長めに話していた。
▼具体的には「金利を下げすぎると、預貸金利鞘の縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害されるため、かえって金融緩和の効果が反転(reverse)する可能性がある」という「リバーサル・レートの議論」に言及。その議論について「注目を集めています」と述べた。
▼もちろん「現時点で、(日本の)金融仲介機能は阻害されていません」との結論に変わりはないが、「経済・物価情勢だけでなく、金融機関や金融市場の状況について幅広く目配りすることができる中央銀行の機能を、最大限活用していく必要があります」という発言には新鮮味があった。
▼さらに「日本銀行は、各種の定性的な情報も考慮しながら、2%に向けたモメンタムを維持するために最も適切と考えられるイールドカーブの形状を不断に追求していく方針」という発言の、「各種の定性的な情報も考慮しながら」という部分はこれまでなかったものだ。
▼10月18日にNYで行われた中曽宏副総裁の講演(進化する金融政策:日本銀行の経験)でも、「先行き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、必要であればイールドカーブの形状についても調整を行っていく方針」という発言が、市場で「金利水準の調整を意識したものか?」との思惑につながったことは記憶に新しい。
▼12月か1月の金融政策決定会合で、総裁・副総裁が海外講演で述べたような「必要であればイールドカーブ形状の調整も」「各種の定性的な情報も考慮しながら」などイールドカーブコントロールの柔軟化をイメージさせる文言が会合公表文に盛り込まれるかどうか注目される。
※この記事はQUICKのオプションサービス「QUICKデリバティブズコメント」で配信した記事を再構成したものです。