21年ぶりの高値圏に浮上した日本株。塩漬けにされていた株に売り抜けの好機到来と言える。それは個人投資家のみならず、「物言う株主(アクティビスト)」にとっても追い風となっているようだ。
※この記事はQUICKのオプションサービス「QUICKエクイティコメント」で2日に配信したニュースを再構成したものです。
旧村上ファンドがイグジットに成功?
電子部品商社の黒田電気は10月31日、投資ファンドのMBKパートナーズによる完全子会社化を目的としたTOBに賛同すると発表。買収総額は1000億円強で、TOB価格は1株2720円とした。これは10月31日終値(2020円)を34.7%上回る水準だったことから、翌11月1日は買い注文が殺到しストップ高比例配分となった。
黒田電気は、旧村上ファンド系投資ファンドであるレノが実質的な筆頭株主で、村上世彰氏の愛娘の野村絢氏、村上世彰氏と関係の深いオフィスサポートなどの共同保有分を含めて約37%も保有しており、このたびTOBの応募でMBKと合意したという。黒田電気側は液晶関連の取引減少で業績が悪化するなか、MBKから資金や人材などの支援を得て事業基盤を再構築するとしているが、レノがイグジットに成功したとみるのが妥当だろう。
これには伏線があった。黒田電気が6月末に実施した株主総会では、レノが提出した社外取締役を選任する株主提案を賛成多数で可決された。「物言う株主」による株主提案が可決されるのは極めて異例で、2009年にアデランスの総会で米スティール・パートナーズが推す取締役の選任が可決されて以来(約8年ぶり)だったという。黒田電気側はレノの提案に反対していたが、他の少数株主もレノに賛同したことで株主提案が可決された。レノは黒田電気に他社との経営統合や株主還元の強化を求めて圧力を強めていく方針としており、今回のイグジットにつながったとみられる。
●黒田電気の株価チャート(QUICK ActiveManagerより)
レノ、次の標的は?
今回の黒田電気からさかのぼること約1年前、2016年11月末にはゴルフ場運営大手のアコーディアゴルフが、投資ファンドMBKパートナーズによる買収で上場廃止となった。アコーディアゴルフも旧村上ファンド系投資会社のレノが実質的に筆頭株主で、共同保有分を発行済みの約19%を保有していた。2013年に投資を開始してから約4年でイグジットに達し、投資総額390億円に対して約480億円回収したという。
この2件から旧村上ファンド系投資会社は筆頭株主として数年間にわたり会社側へプレッシャーを与え続け、MBKパートナーズを通じイグジットを図るというスキームを定着させつつあるように見える。今回の回収資金でレノは新たにどの企業にロックオンするのかも注視したい。
●アコーディアゴルフの株価チャート(2017年3月23日上場廃止、QUICK ActiveManagerより)
エフィッシモの動向に注目
また、シンガポールに拠点を持つ旧村上ファンド出身者らによる投資ファンド「エフィッシモキャピタルマネージメント」の動向にも注目だろう。エフィッシモも株主提案などに積極的な「物言う株主」として知られており、渋チンだったヤマダ電機に圧力をかけて配当金の増加等を勝ち取ったほか、今年5月には宝飾品大手TASAKIがMBKパートナーズによる買収でイグジットに成功した経緯がある。
エフィッシモは保有比率で最も高い川崎汽船(38%超)を筆頭に、日産車体、TOC、ヤマダ電機なども15%程度保有する。エフィッシモの投資スタンスは定かではないが、主に東証1部上場で業績等が落ち込んだ企業の株価が沈む状況で大量に仕込むという戦略と推察される。春先には巨額損失計上で急落した東芝を大量取得したことが話題となったが、取得理由としては「企業価値に比べ割安と判断した。成長を促すために対話することもあり得るが、現時点では具体的に想定していない」と挙げていた。業績不振銘柄への投資のため、イグジットには多少時間かかると思われるが、足元の良好なマクロ環境や世界的な株高の流れがイグジットの流れを後押ししそうだ。
TOBプレーはあるか…
旧村上ファンド系の投資ファンドではレノ、エフィッシモキャピタルマネージメント以外にも、村上世彰氏が関与するとされるオフィスサポートがある。さらに、村上世彰氏の愛娘である野村絢氏、野村絢氏が代表を務めるC&Iホールディングスなどもあり、これらの名称を見かけたら要注目されたい。そのオフィスサポートは10月31日提出の大量保有報告書で、日本郵船の大量取得が明らかとなった。村上世彰氏はニッポン放送株を巡るインサイダー取引容疑で逮捕されてから一線を退いていたが、相場に復帰。今年6月に「生涯投資家」という書籍を執筆し、現在はツイッターで積極的にツイートするなど、精力的に動いているだけに再び「物言う株主」として辣腕を振るう日も遠くはないかもしれない。
旧村上ファンド系投資ファンドが保有する銘柄が下記の一覧で、いつイグジットに向かうも注目点だ。TOBといったイグジット戦略で株価が思惑的に動く局面が近づいているのかもしれない。
※2017年に入り、金融庁の大量保有報告の提出があったもの
【QUICKエクイティコメント・本吉亮】