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世界的な魚食人気で「資源」枯渇の懸念…マグロ養殖ビジネスの基本をチェック

記事公開日 2016/9/30 22:08 最終更新日 2016/9/30 22:18 経済・ビジネス コラム・インタビュー 金融コラム

マグロの養殖ビジネスに拡大の兆しがみられます。背景にはクロマグロなどの漁獲を規制する国際的な動きや、新興国の所得アップによる魚介類の需要増加、健康志向の高まる海外での和食ブームがあります。以前、食文化の輸出をテーマにした銘柄探しを特集しましたが、日本になじみのある「食」に対する注目が、世界的に高まっています。

マグロ

魚食はクールジャパン…大好きなマグロで養殖に脚光

国連食糧農業機関(FAO)の調べによると、魚介類の1人当たり年間消費量が世界平均で20キログラムと、初の大台を突破しました。中国やインドネシアといった新興諸国でのニーズが増えているためです。加えて、健康志向の高まりなどから、世界的に和食が人気化していることも影響しているようです。農林水産省がまとめた海外の日本食レストランの店舗数は、2006年に2.4万店でしたが、2015年には4倍弱の8.8万店に増加。洋画や海外ドラマのワンシーンで和食を目にする機会も増えているのではないでしょうか。

一方、日本の1人当たり魚介類の消費量は世界平均の2.5倍に当たる50キログラム(※2013~2015年の平均値)でした。主要国の中では韓国、ノルウェーに次いで第3位の消費量です(図表1参照)。肉食化が進んでいるものの、世界的にみればまだまだ魚介好きといえそうです。

主要国の魚介類1人当たり消費量
主要国の魚介類1人当たり消費量

魚好きの日本人。魚の中でも好きな魚のナンバーワンはマグロです。

さてこのマグロ、食用は世界に何種類いると思いますか?答えは6種類です。この中でもクロマグロは味、価格、大きさのいずれにおいても最高とされ、マグロの王様といえます。青森県大間町の漁港で水揚げされたクロマグロは「大間マグロ」とも呼ばれ、ブランド化しているほどです。2013年に東京・築地市場で開かれた初セリでは、この大間産が過去最高値の1匹1億5540万円(1キロ70万円)で競り落とされたこともあったほどです。

 

日本人が好きな魚トップ3

日本人好きな魚トップ3

 

マグロの種類と特徴

 

そしてこのクロマグロは日本人の大好物でもあります。世界の消費量の約8割を国内で食しているといわれています。しかし、消費量の増加を受けて、クロマグロの数はピークの1割まで減少してしまいました。

そこで現在、マグロの養殖が脚光を浴びています。

日本人が大好きなマグロの刺身

トロ刺身

 

江戸時代から受け継がれる国内養殖ビジネス

日本の養殖業は、金魚や鯉などの淡水魚を皮切りに江戸時代より前からあったといわれています。一方、海水魚ではマダイの研究が1910年頃からスタート。そして20年代後半には香川県の漁業者がブリの養殖の事業化に成功しました。その後、近畿大学水産研究所の2代目所長であった原田輝雄氏が複数の網状の生簀を並べた「小割(こわり)式養殖」を発案すると、養殖業が加速的に発展。この方式は世界的に普及しました。また、同研究所は、2002年に世界初のクロマグロの完全養殖の快挙を成し遂げたことでも有名です。

国内の養殖魚の生産比率は年々増加傾向にあります(図表4参照)。農林水産省の調べによると、2015年の魚の漁獲量は309万トン。このうち、養殖魚が24万トンと、全体の約8%を占めています。マダイなど魚種によっては大半が養殖のケースもあるほどです。

国内の漁獲量の推移

漁獲量の推移

※出所:農林水産省「海面漁業生産統計調査」

養殖魚のビッグ3といえばブリ、マダイ、銀鮭でしたが、2014年に銀鮭に代わってクロマグロが3位に浮上。順位が入れ替わった背景には、世界的な資源保全の動きの強まりから、クロマグロの漁獲が規制されていることがあるようです。

5つの国際管理機関ではマグロ漁規制の動き

マグロに関する国際管理機関は管轄する海域ごとに5つあります(図表5参照)。特に日本が自由に漁業ができる排他的経済水域を管理する「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」と、大西洋クロマグロを管理する「大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)」は日本にとって重要です。  

両機関ともに30キログラム未満の未成魚のクロマグロの漁獲を規制しています。このほか、前者では今後さらなる規制の強化も検討しているようです。後者では各マグロの生産地などの情報をデータ化する「漁獲証明制度」を採り入れ、不正な漁獲や取引の削減に役立てています。こうした世界的な規制を受けて、天然資源に頼らない「完全養殖」に期待が集まっています。

マグロの主な管理機関

マグロの主な管理機関

 

クロマグロの養殖場は右肩上がりで増加

6種類のマグロのうち、主に養殖されているのは消費者に人気が高い太平洋クロマグロ、大西洋クロマグロ、ミナミマグロの3種です。国内では1970年から水産庁主導によりマグロの養殖の研究がスタート。しかし、当初は失敗続きで養殖が本格化したのは1990年以降です。

クロマグロの主な養殖方法は疑似餌を用いた「ひき縄釣り」で全長20~30センチメートル、重さ100~500グラム程度の天然の幼魚(よこわ)を捕獲し、生簀で2~3年程度飼育するスタイルです。ブリ(ハマチ)やカワハギなども同手法です。

一方、海外では数十キログラム程度まで大きくなった天然のマグロを獲ってきて生簀で餌を与えながら育てる「畜養」が主流です。スーパーなどの小売店ではどちらも養殖として表示されていますが、養殖方法は異なります。輸入品は概ね蓄養されたマグロです。 

 

ひき縄釣り
ひき縄釣漁

マグロ養殖の様子 マグロ類養殖

クロマグロの国内養殖場の数は近年、右肩上がりで増加しています。2015年末時点では160カ所、このうち69カ所が長崎県にあります。同県の周辺海域は天然マグロの幼魚の回遊ルートで養殖に適した環境のうえ、県が養殖の振興プランを打ち出していることも数が多い理由のようです。全体的に南の海域に養殖場が集中しているのは、冬でも比較的暖かいため、魚が餌をよく食べて成長するからでしょう。

クロマグロの国内養殖場160か所の分布

クロマグロの国内養殖場160か所の分布

クロマグロは他の魚種と比較して卸売価格が相対的に高いため、養殖業者の中にはブリやマダイからシフトする例もあるほどです。例えば、東京・築地市場で8月に取り引きされたマダイ(養殖)の卸売価格は1キログラム当たり平均1000円弱でしたが、クロマグロ(国内産)は3000円超と3倍でした。

冷凍クロマグロと養殖マダイの価格推移

冷凍クロマグロと養殖マダイの価格推移

 

近大の完全養殖は養殖産業に地殻変動もたらす

近畿大学水産研究所が世界で初めて成功したクロマグロの「完全養殖」は、従来の養殖方法とは異なり、人工孵化(ふか)したマグロの卵を再び人工的に育てるというものです。直径1ミリほどの受精卵を採取し、陸上の水槽でプランクトンを与えながら稚魚に成長するまで1カ月ほど育てます。その後、海上の生簀に移動させて3年程度かけて30キログラム以上まで育てて出荷するという仕組みです。1970年の研究開始から2002年に成功するまで実に32年の歳月を要しました。

クロマグロは生態が謎に包まれていたうえ、成長すると300キログラムにもなる巨体に反して非常に繊細な性格だからです。例えばマダイの場合、稚魚に成長するまでの生存率は50%程度ですが、クロマグロは数%といわれています。完全養殖が注目される理由は、天然物を必要としないので資源を減少させないためです。同方式なら複数の国際機関が禁止している小型のクロマグロの捕獲に抵触しません。

クロマグロ

年率6%で成長する世界の養殖市場

世界的な魚介類のニーズの高まりを受けて、養殖ビジネスは好調です。国連食糧農業機関(FAO)によると、2012年の養殖業の生産量は過去最高の9040万トンに達し、このうち6660万トン(残りは海藻類)が食用の魚介類でした。魚介類の生産量は2000年以降、年率6.2%で伸びています。同機関は13年の魚類の生産量はさらに拡大し、7,050万トンと予想しています。世界最大の養殖大国は中国。世界の養殖生産量の6割を担っています。日本は13位でしたが、養殖市場の伸びを享受できるよう奮闘したいところです。

 

マグロ養殖関連銘柄は?

 養殖関連の業種といえば水産・農林業。このサイトの「簡単業種分析」を利用すれば、同業種の売上規模が大きい銘柄をすぐに検索できます。上位1~3位まではいずれもクロマグロの完全養殖ビジネスを手掛けていました。売上高が最大のマルハニチロは1987年に完全養殖に取り組み、2010年に民間企業として初のクロマグロの完全養殖に成功。しかし事業化は一筋縄では行かず、プロジェクトを一時中断したこともあったそうです。「BLUE CREST(ブルークレスト)」というブランド名で大手スーパーイオンのプライベートブラントとして出荷されました。日本水産は「喜鮪(きつな)金ラベル」という商品名で2017年冬の出荷を予定。極洋は日本配合飼料と合弁会社を設立し、同じく17年の出荷を目指しています。

 

水産・農林業の売上の上位銘柄

水産農林売上上位

 

マグロの完全養殖には商社も関わっています。三菱商事(8058)の子会社の東洋冷蔵、豊田通商(8015)双日(2768)はいずれも近畿大学とタッグを組んでいます。東洋冷蔵の完全養殖マグロのブランド「TUNA PRINCESS(ツナプリンセス)」は回転ずし大手あきんどスシロー(大阪府吹田市)で提供されました。また、近畿大学はサントリーグループのサポートを受けて、養殖魚専門料理店を大阪府と東京で展開。「近大マグロ」の実力を確かめに店舗へ足を運んでみてはどうでしょうか。

マグロ養殖関連銘柄

マグロ養殖関連銘柄

 

完全養殖のクロマグロの出荷量前年比2倍

クロマグロの完全養殖は事業化にメドが立ち、今後は急速に拡大する可能性があります。農林水省が発表したデータによると、2015年の養殖クロマグロの出荷量は1万4726トン、このうち完全養殖は943トンでした(図表8参照)。出荷量自体はわずかですが、前年比の伸び率は2.4倍と大きくなりました。

 ただ課題もあります。クロマグロの生存率はマダイなどと比較するとまだ低くコスト高になっているほか、餌は天然の魚を使用しているケースも多いため、環境保全を徹底するために配合飼料の導入を加速する必要があります。クリアすべきハードルはあるものの、完全養殖マグロの大量生産が現実味を帯び、日本人が大好きなクロマグロを気兼ねなく食べられる日が近づいているようです。

クロマグロの養殖方法別の出荷量

クロマグロの養殖方法別の出荷量

 

(編集:QUICK Money World)


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