森記念財団の都市戦略研究所が公表した2017年版の「世界の都市総合力ランキング」で6年連続1位を獲得した英ロンドン。「経済」や「研究・開発」といった評価対象となる6分野のうち、4分野が2位以内と高い評価を得る一方で、「居住」は17位と低迷した。実際にロンドンの住宅事情はどうなっているのかを探った。
■高級住宅、直近ピークから16%下落
高級住宅の価格は下落基調が続いている。英不動産サービス会社サヴィルズによると、2017年のロンドン中心部の一等地の住宅価格は前年比4.0%下落した。直近のピークだった2014年からの下落率は15.9%に達した。不動産売買にかかる税制変更やブレグジット(EU離脱)交渉への不透明感などが影響しているとの見方が多い。
「信じられない値引きだ」。通信社も英不動産業者の驚きの声を伝える。ロンドン・テムズ川沿いに建設中の高級マンションを購入したアジア出身の投資家が、2013年に合意した購入価格を22%余り下回る水準で売りに出しているという。
■庶民には「高嶺の花」
それでも庶民にとっては「高嶺の花」のようだ。10年前と比べると、なお6割も高い水準にある。住宅コストの負担が「居住」の評価を押し下げていると推測できそう。
住宅価格の高騰が続いた結果、「住宅を初めて購入する若年層らファーストタイム・バイヤーの約4人に1人(25.9%)は、50万ポンド(7600万円)以上の物件を購入せざるを得ない状況に置かれている」(サヴィルズ)。この比率は2007年が4%、12年が8%に過ぎなかった。
<テムズ川沿いから見た建設中の高層ビル群>
■気になる海外投資家の動向
住宅価格の下落が続くと、保有資産の価値減退を通じて家計や個人消費に悪影響を及ぼす。特にロンドン中心部には居住用・商業用不動産ともにアジアを中心とした海外投資家の投資マネーが大量に流入しており、グローバルなおカネの流れにも変化を与えかねない。英不動産サイト大手ライトムーブのディレクター、マイルズ・シップサイド氏は「売り手側の価格決定力を高める材料は見当たらない。経済・政治的な不透明感もあり、2018年もロンドン住宅価格の下落は続く」と予想する。
海外投資家については「英ポンド安傾向による相対的な割安感から、特にアジア勢を中心に英不動産市場への継続的な資金流入が見込まれる。米国と中国の対外経済政策を巡る懸念が続き、安全な投資先の一つとして世界の機関投資家のマネーを引き寄せるだろう」(米不動産サービス大手コリアーズ・インターナショナル)といった楽観的な見方が多い。
海外勢の動きに左右される市況は不安定さが伴う。金利上昇の気配も強まっており、ロンドン高級住宅の価格下落が続くことを懸念しているのか、それとも買いの好機となお判断しているのか――。動向が気になるところだ。
(QUICK資産運用研究所ロンドン 荒木朋)